伝えたい人のために 伝わる言葉のために – 日本工芸週間 https://craftweek.jp Mon, 20 Oct 2025 04:46:10 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=7.1.2 国宝の茶碗にふさわしい訳語はどれ?  https://craftweek.jp/column/73780 Fri, 09 Aug 2024 15:04:47 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=73780 展覧会ごとに異なる英訳語

抹茶味のアイスやお菓子は、この数年で一挙に国際的に人気の高いスイーツとして認知されるようになりました。その本来の姿、抹茶を飲むための器が、茶碗です。抹茶をたしなむ文化は、教えてもらった中国に残っていないため、いまでは日本独自の文化といえるものです。しかしその茶碗で国宝の指定を受けた、栄えある日本産のものはたったの2碗しかありません(ほかは、中国産が5碗、朝鮮半島産が1碗)。その貴重な1碗が三井記念美術館所蔵の志野しの卯花墻うのはながき」です。

この茶碗の正式な名称は、三井記念美術館のサイトでは、「志野茶碗 めい 卯花墻」と表記されています。

https://www.mitsui-museum.jp/collection/collection.html

「志野茶碗」の「志野」とは、やきものの種類の名前で、「銘 卯花墻」は「名前は卯花墻うのはながき」という意味になります。

この茶碗は国宝ゆえに日本国内の展覧会にもよく登場し、さらに日本文化や日本美術を紹介する海外向けの本やサイト上で英語表記されることがよくあります。しかしその訳語は、驚くほどに紹介されるたびに異なっています。

以下は、CoJのチームで調査した「志野茶碗 銘 卯花墻」の英訳語の例です。

  1. Tea Bowl, Shino Style Known as “Unohanagaki
  2. Shino type tea bowl known as “Unohanagaki”
  3. Tea Bowl Mino ware, Shino type Known as Unohanagaki(“deutzia
    shrubs”)
  4. Tea Bowl, Mino ware, Shino type Known as U no Hanagaki
  5. Tea bowl, Mino ware, Shino ware known by the name of U-no-hana-gaki
  6. Tea bowl, Shino ware named “Unohanagaki”
  7. Tea bowl in ʻShinoʼstyle, fence design named ʻUnohana-gaki(deutzia flowers
    in fence)ʼ
  8. Tea bowl, Mino ware, shino type named “Unohanagaki

パッと見ても、さほど違わないように思えるかもしれませんが、同じ言葉がどう訳されているかを示したのが以下の一覧です。志野が茶色、茶碗が黒、銘は下線つき、卯花墻は緑色です。

ここからは、「志野茶碗」、「銘」、「卯花墻」の3つのパートに分けて解説します。

1「志野茶碗」はどう訳す?

「志野茶碗」については、8通りの訳語がありました。

①Tea Bowl, Shino Style

②Shino type tea bowl

Tea Bowl Mino ware, Shino type

④Tea Bowl Mino ware, Shino type

⑤Tea Bowl Mino ware, Shino ware

⑥Tea bowl, Shino ware

⑦Tea bowl in ‘Shino’ style

Tea bowl, Mino ware, shino type

「茶碗」については、「Tea Bowl」という訳語が定着しています。そして重要な情報の順に単語を並べるという英語の性質から、「Tea Bowl」が最初に来るのがよいでしょう。

「志野」は「美濃焼」と呼ばれる岐阜県多治見市や可児市周辺でつくられた、やきものの意匠(デザイン)の一種です。美濃焼のなかで他でよく知られたものでは、瀬戸黒、黄瀬戸、織部などがあります。

Shino type、Shino style、Shino wareに分かれ、さらには、日本語になかった、Mino ware(美濃焼)があったりなかったりします。日本語で「志野」と言うと、それは「美濃焼の中の、(白い長石由来の釉を掛けるつくり方を経た)志野という型」という意味になります。「志野」だったり、「志野焼」だったりしますが、同じものです。日本語では、やきものに関心のある人であれば、志野は岐阜県の美濃地方でつくられると知っていることを前提に「美濃焼」の部分を省いていたり、もしくは、どこのものかをわからなくとも、少なくともやきものの種類の一つだと認識できる、という前提で省かれてきたのかもしれません。英訳される際には、隠れていた「美濃焼」も訳されて、「美濃焼のなかの一種」とわかるようにすることが多いようです。美濃焼のなかには、ほかに瀬戸黒、黄瀬戸、織部などありますが、それぞれ原料も焼き方も異なるため、見た目「様式」というよりは、やきものの素材や技術のもっと大きな部分の種類が違うため、typeがふさわしいとなりました。

「志野茶碗」は「Tea bowl, Mino ware, Shino type」と表すのがよいということになります。

MinoやShinoは日本語の美濃や志野をローマ字にしたものですが、固有名詞のためイタリックにする必要はありません。イタリックにしなければならない語、しなくてよい語については、この連載第1回のこちらの記事をご確認ください。 輪島塗の翻訳語、海外ニュースで見てみたら? – 日本工芸週間 (craftweek.jp)

2「銘」はどう訳す?

続いては、「銘 卯花墻」の英訳です。こちらの訳語は、以下の6通りがありました。

①Known as “Unohanagaki”

②Known asUnohanagaki”(“deutzia shrubs”)

③Known as U no Hanagaki

④known by the name of U-no-hana-gaki

⑤named “Unohanagaki”

⑥fence design named ʻUnohana-gaki(deutzia flowers in fence)

そもそも「銘」とは何でしょう? 

藤田美術館のサイト(https://fujita-museum.or.jp/topics/2021/05/14/1451/)からの説明をお借りすると、「茶碗などの器物につけられた名前で、ニックネームのようなものです。物の姿形から連想されたり、由来や所有者などにちなんでつけられます。」

このことを踏まえると、「銘」の意味を示すには、

・広くその名で呼ばれるようになり、定着したという意味では、“called”

・茶人や数奇者が特別な思いを込めて名付けたという意味では、“named”

が推奨されるものです。

卯花墻は、江戸時代の茶人が格子状の文様が見え隠れする様子を卯の花が咲く垣根に見立てて、名付けたとされています。

このことを踏まえると、この茶碗においては「named」が推奨されることなります。

「known as」は、たとえば「Shino type tea bowl known as ʻUnohanagaki」となると、「『卯花墻』として知られている志野様式の茶碗」となり、「すべての志野様式の茶碗が卯花墻として知られいる」というようにも解釈できるため、おすすめできません。

3「卯花墻」はどう訳す?

CoJでは、2019年にロンドンのジャパン・ハウスで開催したシンポジウムにて、この「志野茶碗 銘 卯花墻」を英語としてどう訳すか、上記のような訳語が通じるかを調査しましたが、「卯花墻」の訳語については意見が分かれました。

たとえば、以下のような意見です(「工芸英訳ガイドライン 心構え・基礎編」p6、7より引用。p.24にシンポジウムのダイジェスト版もあるので、ご参考ください)。

「ローマ字表記は必要。でも意味まで記すのは難しい」

そもそも「銘」は、複数似たものがあるときに、どの茶碗かを判別するのに役立っています。「銘」は人名と同じで、音としてローマ字で記す必要はありますが、その意味を訳す必要はないと思います
[西田宏子|根津美術館顧問]

「『銘』についての解釈の翻訳を、解説のほうには必ず入れるべき」

私は訳したほうがいいと思います。まずローマ字表記にします。そのうえで、持ち主がこの「卯花墻」という「銘」をつけた由来を中心に、25語から50語で解説するべきだと思います
[Joe Earle|ボナムズ日本美術部門シニア・コンサルタント、元ジャパン・ソサエティ・ギャラリー(NY)ディレクター、元ボストン美術館東洋部主任部長]

「迷うところです」

必ずしも簡単ではありません。詩的で想像力を刺激する茶道具に与えられる「銘」は翻訳が難しく、長い文を書くよりほかありません。銘に対する翻訳を、タイトル中にすぐにつけたほうがよいのか、解説に譲ったほうがいいのか、判断に迷います
[Rupert Faulkner|ヴィクトリア&アルバート博物館 日本美術部門シニア・キュレーター]

「作品を理解するには必要な要素」

作品に固有の「銘」は、作品を理解するためには必要です。「卯花墻」の名前はすぐに特定できない樹木の名前に由来しています。私からみれば(作品名の)翻訳というより、解説の粋に入ります。何故この作品が作られ、何がこの作品を格別なものとし、その名前が指すのがどんな花や木なのか、こういったことは全て解説になります
[Tanya Szrajber|大英博物館 データベースおよび単語の記録保存部門の前責任者]

―――

議論の結果、「工芸英訳ガイドライン」での「卯花墻」の推奨訳は音訳をイタリック体とする「Unohanagaki」となりました。イタリック体であることで、日本語由来の特別な言葉であることがわかるため、たとえ意味がわからなくても、読む人にはストレスになりません(このイタリックの使い方についても、詳細は第1回の記事(輪島塗の翻訳語、海外ニュースで見てみたら? )をご参考ください。

「Unohanagaki」は日本語由来の言葉なので、詳しい説明が知りたい人は、解説を読んでください、ということになります。

「卯花墻」は、先に説明した通り、「卯の花が咲く垣根」という意味ですが、旧字体ということもあり、日本人であってもまず読み仮名がなければ読めず、さらに卯の花をすぐに思い浮かべられる人は少ない上に、「卯の花が咲く垣根」がどんなものかわからない人もいるでしょう。意味に合わせて、音をスペースや「-」で分けても意味をなさないので、「Unohanagaki」とそのままの形を取ります。

つまり、銘とはそのようなものも多いため、名称として意味を伝えることは難しいため、その部分は解説で補うということになります。

結論:「志野茶碗 銘 卯花墻」の推奨訳

これで、「志野茶碗」「銘」「卯花墻」のそれぞれの訳語は決まりました。

「志野茶碗」→Tea bowl, Mino ware, Shino type

「銘」→named

「卯花墻」→Unohanagaki

これら3つを組み合わせる際の語順としては、「卯花墻」はこの茶碗のために名付けられた銘のため、「Tea bowl」のすぐ後ろに「named」として説明し、「志野茶碗」はその後ろに置きます。一番後ろに置くと、「志野茶碗」を「卯花墻」と名付けたようにも解釈できてしまうため、これでは世の中に無数ある志野茶碗の別名になってしまいます。

以上のことから、「工芸英訳ガイドライン」による、国宝「志野茶碗 銘 卯花墻」の推奨訳は、

Tea bowl, named Unohanagaki, Mino ware, Shino type

となります!

なお、日本刀などの刀剣にも「銘」がありますが、これは作刀者が作品に自身の名前などを記したもののため、茶碗や茶入、花入などの銘とは性格が異なります。

2019年にロンドンのジャパン・ハウス行ったシンポジウムでは、「志野茶碗 銘 卯花墻」の他に、産地の工芸品名(「九谷焼」など)の訳し方、「柿右衛門」(伊万里焼の様式)について、「楽」(楽焼)の訳し方などを取り上げました。

ご興味のある方は、「工芸英訳ガイドライン 心構え・基礎編」のp.22のダイジェスト版をご一読ください。

いまさら「違って何が悪い」のか

Tea bowl, named Unohanagaki, Mino ware, Shino type」は、「工芸英訳ガイドライン」としての推奨訳ですので、これからも違う英訳で「志野茶碗 銘 卯花墻」が紹介されることがあるかもしれません。

その「違う」ことの何が問題なのか。それぞれ伝わるのだから、それなりに訳されていればよいのでは?と思われるかもしれません。海外の小説の名作に、いくつもの翻訳家や小説家が手がけた邦訳があるように。

しかし、文章ならともかく、固有の名称が複数あるというのは、単純に「伝わる」「伝わらない」の問題とは別の問題が起きてきます。ルーヴル美術館の『モナ・リザ』が、『ジョコンダ婦人』などとも呼ばれるという話があります。

ですがこれは、元の絵画のイタリア語名は、『La Gioconda』、フランス語名は『La Joconde』、英語名が『Mona Lisa』なので、それのどれを日本語にしているか、ということに他なりません。

絵画としてのタイトルはあくまで1つで、ほぼ10割が、英語の音をカタカナにしたタイトルだけが知られてきたがゆえに、『モナ・リザ』は迷うことなく、ルーブル美術館にある「あの作品」と認証されてきたのでしょう。

日本の象徴ともいえる茶碗が展覧会ごとに違う英語名で紹介されると、それが同一のものとは認識されにくくなります。「この前見た時と、タイトルが違うけど、これは同じものだ」と、志野茶碗を見てわかる人は、相当な愛好家か研究者でしょう。同一名を繰り返すことで、その存在を覚えてもらう必要があるのです。認識がなければ、魅力は伝わりにくいものとなってしまいます。呼称が違っているがゆえに認識されないとは、とてももったいないことではないでしょうか。

そしてそれは、この国宝の茶碗の英訳だけではなく、工芸の用語全般に関しても言えます。

また、○○焼や△△塗などの用語も、産地が違えばもちろん、同じ産地の中でも英訳語が違う場合があります。

「輪島塗」の場合、ガイドブックにWajima-Nuri と書いてあったから、その表記の商品を探そうと思っても、Warjima lacquerwareという商品しかなかったら、同じものなのかどうかがわかりません。場合によっては、どちらかを廉価版のニセモノだと思ってしまうこともあるでしょう。商品を買ってもらえるチャンスを逸してしまうということがあったら、とても残念なことです。

そのため私たちは、「伝わる英語」で工芸を伝えるための活動をしています。

ご興味のある方はぜひ、過去の連載や、こちらの動画、サイトをご覧ください。

Watojiオリジナル 連載 伝えたい人のために 伝わる言葉のために – 日本工芸週間 (craftweek.jp) 

「工芸英訳ガイドライン」ショート動画

ザ・クリエイション・オブ・ジャパン 工芸英訳ガイドライン紹介サイト

工芸英訳ガイドライン | The Creation of Japan

]]>
「金継ぎ」は「kintsugi」? https://craftweek.jp/column/73676 Wed, 10 Jul 2024 00:48:06 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=73676 日本語でも難しい工芸の用語。これを海外の言葉で正確に伝えるのはとても大変です。さらに、英文には正しい表記や特殊語の扱い方にルールがあります。ザ・クリエイション・オブ・ジャパン(CoJ)は、「伝えるため」の言葉のみちづくりとして「工芸英訳ガイドライン」プロジェクトに取り組んできました。ここでは、なぜなぜこの活動が必要なのか、具体的に何をやっているのか、今後の展開は?など、この事業に興味のある方はもちろん、海外での展開を考えている文化関係のかたや、「翻訳」に興味のある方に、楽しく読んでいただければと思います。

「オックスフォード英語辞典」認定

『オックスフォード英語辞典』に、新たに23の日本語由来の言葉が加えられたと発表されました。

https://www.oed.com/discover/words-from-the-land-of-the-rising-sun?tl=true

その言葉は、以下のものです。

donburi(どんぶり)

hibachi(火鉢)

isekai(異世界)

kagome(籠目)

karaage(唐揚げ)

katsu(カツ)

katsu curry(カツカレー)

kintsugi(金継ぎ)

kirigami (切り紙)

mangaka(漫画家)

okonomiyaki(お好み焼き)

omotenashi(おもてなし)

onigiri(おにぎり)

santoku(三徳)

shibori(しぼり、纈)

takoyaki(たこ焼き)

tokusatsu(特撮)

tonkatsu(とんかつ)

tonkatsu sauce(とんかつソース)

tonkotsu(豚骨)

tonkotsu(とんこつ)*昔の「煙草入れ」の「とんこつ」

washi tape(和紙テープ)

yakiniku(焼肉)

アニメ・コミック、インバウンドの方々が日本で知った和食(日本人にとっては洋食であっても・・)、そして土産店で知ったのかな、と思うものが並び、いまを象徴していますね。しかし、「工芸英訳ガイドライン」の担当者として注目したいのは、「kintsugi(金継ぎ)」です。「金継ぎ」とは、日本語の辞書には説明されています。

割れたり欠けたりした陶磁器を漆で接着し、継ぎ目に金や銀、白金などの粉を蒔いて飾る、日本独自の修理法。修理後の継ぎ目を「景色」と称し、破損前と異なる趣を楽しむ。現代では漆の代わりに合成接着剤を使うこともある。金繕い。

「デジタル大辞泉」より

https://kotobank.jp/word/%E9%87%91%E7%B6%99%E3%81%8E-481548

金継ぎは日本独自の修理方法のため、それに対応する英語の言葉は存在しません。

そもそも日本国内においても、二つに割れたものをつなげる時に石油由来の接着材を使うのが当たり前になった現代では、漆を接着材として使うことを知らない人のほうが多いくらいでしょう。まして、金継ぎとなると、古美術やお茶道具の世界で特に大切なものだけに、継ぎ目に金や銀を蒔くものでしたから、一般に眼にする機会は多くはありません。
しかし、「環境」が意識され、「もったいない」「SDGs」という言葉が世界に拡がるにつれ、器を「捨てず」「修理して使う」行為の象徴として「金継ぎ」は一挙に知られるようになりました。作業はコツコツ没頭する心地よさもあり、ここ数年は教室はどこもキャンセル待ちの状態で、さらには外国人観光客向けの金継ぎ体験の工房が人気を博し、増えています。

金継ぎ工房を運営されている方が、このようなことをおっしゃっていました。

「『金継ぎ』は、できた継ぎ目や生まれ変わった姿を愛でるところまでを含めるので、英語のmoldingやrepairingなどでは言い表せない」

当時は、金継ぎが海外に注目されはじめてはいましたが、正確に伝えられる言葉がなかったのです。

今、オックスフォード英語辞典には、「Kintsugi」は、以下のように掲載されています。

―――――
The Japanese art of repairing broken pottery by meticulously joining pieces back together and filling cracks with lacquer dusted with powdered gold, silver, or platinum, thereby highlighting the flaws in the mended object. Also in extended use: an aesthetic or world view characterized by embracing imperfection and treating healing as an essential part of human experience. Frequently as a modifier.

訳すと、

壊れた陶器を細心の注意を払って再びつなぎ合わせて修理し、漆で亀裂を埋め、金、銀、またはプラチナの粉を蒔き、それによって修理された陶器の継ぎ目を際立たせる日本の芸術。より広義には、不完全さを受け入れ、癒しを人間の経験の不可欠な部分とみなすという独特の美的感覚や世界観。頻繁に修飾語として用いられる。
―――――

後半の「より広義」としての部分で、先の金継ぎ工房を運営する方がおっしゃった通り「repairing」以上の事柄が「kintsugi」という語に含まれていることがわかります。まさに、この概念までを含んだ英単語がないからこそ、「kintsugi」が英語になったのでしょう。「修飾語として使われる」のも、おそらくこの部分のことで、「金継ぎ的な○○」や、「金継ぎのように□□する」という表現になっていくのでしょう。

「金継ぎ」を表わす英語を考えたときに、「molding」や「repairing」では継ぎ目を愛でる意味が含まれないのではないかと疑ったように、英語で工芸分野のものごとを伝える際に、「この語や表現で、この内容は伝わっているのか」と、一瞬でも立ち止まるのはとても重要です。

よく知る言葉でも「伝わっていない」かも

この点で、工芸の世界で話題になるのが、「人形」です。

「人形」は英語では、「doll」と習いましたが、オックスフォード英語辞典には、なんと「a child’s toy in the shape of a person, especially a baby or a child(人の形、特に赤ちゃんや子どもの形をした、子ども向けのおもちゃ)」と記されています。そう、これは玩具としての意味しかなく、例えば私たちが工芸作家が手がけた「人形」を目にした際に抱く、直接触るのが時にはばかれる、ガラスケースに入れたくなる繊細さの感覚にはほど遠いのです。

もう一つ例を挙げてみましょう。「つぼ」「かめ」です。水・酒、味噌やお漬物を溜める容器です。日本には「上に開口部を持つ器」にはさまざまな形状や用途のものがあります。壺も甕も区別がつかない・・という現実はさておき、液体を容れる器に、用途や場面によって言葉を使い分けてきました。「工芸英訳ガイドライン」p.3に掲載されている以下をご覧ください。

使い方によって言葉が完全に別のものとなり「壺」、「甕」、「水指」、「建水」となっている容器は、英単語ではすべて「jar」です。美術館に陳列された、例えば備前焼びぜんやきの壺も甕も水指も作品名としては、すべて「jar」となります。もっとも、展覧会の主旨によっては、使い方をしっかり伝える必要もあるでしょう。そのときは、「jar+用途を説明する語」にして、もとの日本語に近い意味をつくっていきます。たとえば、「水指」は「茶道の点前てまえに使う、水を蓄えておくための容器」なので「fresh water jar」、「建水」は「茶碗をすすいだ(使い終えた)湯水を捨てる広口の容器」なので「waste water jar」となります。ここに文化としてのこだわり(深化)があるからこそ、繊細な違いを表そうと言葉が細分化していった例です。

もちろん反対に、英語には細かく分けられた単語があるのに、日本語ではひとつの単語になってしまうものもあります。工芸、芸術の分野ではありませんが、代表的なのは、「牛」です。こちらも、上の通り、「工芸英訳ガイドライン」(p.4)にも掲載されているのですが、「cow」「cattle」などオスかメスか、子どもか大人かなどの違いで英語では13の単語になっているものが、日本語では「牛」となります。これは、欧米が牧畜を中心とする文化だから深化し細分化した証しです。同様に、日本では「魚」「米」「木」に関する語彙が豊富です。魚へんを持つ漢字の多さから一目瞭然ですし、「ブリ」が、成長によって「イナダ」、「ワラサ」などと呼ばれるのは、英語の「牛」と同じですね。

金田一春彦著『日本語 新版(上)』によると、そもそも日本語は単語(語彙)の数が非常に多い言語だそうです。原因としては、①日本人の生活文化の複雑性、②日本語が新しい語彙がつくりやすい とありました。

①については、日本の食生活や生活習慣が、様々な文化の要素を取り入れた多様なものであることからわかります。②については、①で入ってきたような新しいものやことを、外国語をカタカナとして取り入れて表現しやすいとありました。

他にもこの本には、たとえば「日本語には、自然を表現する言葉が多く、それは日本の自然が変化に富んでいることはもちろん、日本人が自然に親しみ、強い関心をもって来たことを意味している」など、時に他の文化の言語と比較しながら様々な事例が紹介されており、「言葉」は「文化」と密接に関わっているのだなあということがわかります。ご興味のある方は、ぜひご一読ください。→金田一春彦著『日本語 新版(上)』 (岩波新書 1988年)


工芸に関する言葉は、「本=book」のように一対一ですっきりと置き換えられることはごく稀だと思いましょう。そもそも現代に生きる私たちにとって、日本語であっても理解できない工芸の技や形状を表す言葉が多数あります。それらを、自然の条件や生活習慣が異なる国の人たちに、言葉を置き換えながら理解をしてもらうわけですから、多くのかみ砕いた「説明」、時には背景を含めた「補足」が必要だと心して向かう必要がありそうです。

]]>
AIに任せない! 伝わる英訳のために https://craftweek.jp/column/73410 Mon, 10 Jun 2024 02:51:07 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=73410 日本語でも難しい工芸の用語。これを海外の言葉で正確に伝えるのはとても大変です。さらに、英文には正しい表記や特殊語の扱い方にルールがあります。ザ・クリエイション・オブ・ジャパン(CoJ)は、「伝えるため」の言葉のみちづくりとして「工芸英訳ガイドライン」プロジェクトに取り組んできました。ここでは、なぜなぜこの活動が必要なのか、具体的に何をやっているのか、今後の展開は?など、この事業に興味のある方はもちろん、海外での展開を考えている文化関係のかたや、「翻訳」に興味のある方に、楽しく読んでいただければと思います。

AI翻訳の落とし穴

先日、読売新聞オンラインにて、以下のような記事が掲載されていました。

忍者体験で「調子に乗るな」?…AI翻訳が頼りの京都の外国語案内表示、1割強でミス発覚
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240515-OYT1T50136/

訪日外国人観光客がさらに増え続けている京都。京都市観光協会が市内の宿泊施設や飲食店など50施設の外国語による案内表示3,600ヶ所を調べました。その1割強にあたる約500ヶ所で、言葉の間違いが見つかったそうです。
その中では、AI翻訳(自動翻訳)を利用したものが目立ったとのこと。挙げられていた例の一つが、記事の見出しになった「調子に乗るな」です。
これは、VR(仮想現実)を利用した忍者体験のアトラクションでの注意書きで、「暴れないで」と伝えたく「Don’t act up」と記されていました。しかしこれは、「調子に乗るな」に近いニュアンスです。
たしかに「暴れる」を日英辞典で引けば、“act up”は出てきます。でもこれの単純な否定形が「暴れないで」という意味にはならないということは、ネイティブスピーカーあるいは、翻訳の専門家でなければ判断ができないでしょう。

私的に利用するにはとても便利な自動翻訳ですが、このような施設での注意書きは、利用者に「正確に伝えること」が何より重要です。正確に伝わらないと注意書きが守られず、利用者はもちろん、その施設にも何らかの不利益があるかもしれません。
AIで調べて訳した言葉が、伝えたい意図を伝えたい相手に「正確に伝わっているか」の確認を、生身の人にしないまま使ってしまうには、自動翻訳の精度はまだ高くないと考えたほうがよさそうです。

京都市観光協会はこの調査結果を踏まえて、今年4月に「外国語表記ガイドライン」を発表しました。

※監修者のザッカリー・カプランさんは、私たちの活動も強力にサポートしてくださっています。

以下から、その内容や関連する動画を見ることができます。
利用者にわかりやすく、伝わりやすい実用的な英語表示やピクトグラムが提案されています。

「外国語表記ガイドライン」(京都市観光協会HPより)

https://www.kyokanko.or.jp/wp/wp-content/uploads/Kyoto-City-Tourism-Translation-Guideline.pdf

https://www.kyokanko.or.jp/news/20240329_4/

こちらは「観光」という場に焦点が当てられていますが、同じような目的で「工芸」をわかりやすく伝えようと、私たちCoJが取り組んでいるのが「工芸英訳ガイドライン」です。

100人に聞きました。通じるのはどの英訳語?

CoJでは、2019年にロンドンで言葉に関するシンポジウムを開催しました。日本文化に関心のある約100人の参加者に工芸に関する言葉の訳語を提示し、「伝わっている」「伝わっていない」を調査しました。

 
 

たとえば、白い磁器の素地にコバルトを使って絵柄が藍色に仕上がるやきものの技法「染付そめつけ」。その英訳語は、以下のような結果でした。

「工芸英訳ガイドライン 心構え・基礎編」p2より

ここに挙げられた20種の英訳語は、国内外の美術館での展示解説(キャプション)、図録、そして行政機関の公的資料、佐賀県内の施設の表示などからピックアップしたものです。「染付」という一つの言葉に対してこれだけの訳語があることがまず驚きですが、それだけ工芸を英訳するのが難しいということがおわかりいただけるかと思います。
そもそも染付という技術は、17世紀に中国や朝鮮半島から日本に伝わったもので、日本にしか存在しない特殊なものではありません。染付が施された磁器は、16世紀から18世紀にかけて中国や日本からヨーロッパに大量に輸出されていたため、その頃から英語やドイツ語、フランス語で染付を表現する言葉は存在していました。しかし、21世紀になったいまでも次々と訳され直し、新たな訳語がつくられているのが現状です。

上記に挙げた「染付」の英訳語20種について、ロンドンのシンポジウムの参加者にその意味が「伝わっている」か「伝わっていない」か尋ねた結果を、右側の列に数字として示しています。そして「伝わっている」の人数が多かったものには、訳語として意図が伝わり推奨できるという意味で○をつけました。
結果、「伝わっている」とされたものは7つとなりました。「伝わっていない」英訳語の中には、会場内から失笑が起きたものさえありました。そのような言葉を使ってしまうと、内容を正しく伝えられていないことはもちろん、その作品や商品が吹き出すしてしまうようなレベルに価値を貶めてしまうことになりかねません。

一方、工芸品の訳語でよく見かける「音訳でのローマ字化」(「染付」の場合は”sometsuke”)があります。これは手抜きではなく、「名称を大切にしたい」「この言葉を覚えてほしい」という意図をもつこともあります。
しかし”sometsuke”と書いてあっても、英語話者の多くが「ソ・メ・ツ・ケ」という音で発音することができないようです。当然のことですが、「どう訳せばよいかわからなかったら、とりあえずローマ字にしておこう」は、誰にも伝わることはなくほぼ無意味な作業です。

一方でこの結果において、満場一致の意見がほとんどなかったことは興味深い点です。
シンポジウムのファシリテーターを務めた渡辺俊夫氏は、参加者たちのバックグラウンドの違いによるものではないかという見解を出しています。言葉の学者、工芸の専門家、美術の専門家、一般の参加者、加えてそれぞれの日本文化への慣れや習熟度の違い。こういった要因によって判断するポイントが変わるのではないかとのことでした。

この「バックグラウンド」の違いは、同様に訳す側にもあてはまります。「染付」の訳語が20種にもなった理由の一つでしょう。伝わる例の中でも、陶磁器の技術に詳しい人、美術に詳しい人、色を重視する人など、訳者の属性により訳が変わったことも考えられます。それぞれの訳語が「染付」として通じてしまうこともあり、「唯一これだけが正しい」と一つに絞ることができないのも実情です。

目的や対象に合わせて「伝わる」訳語を選ぶ

「工芸英訳ガイドライン」はこうした事情もふまえ、一つの用語に対して一つの正解を決めつけることをやめました。推奨するに値する訳語と、なぜそれがよいのかを複数載せています。推奨する人の立場とその理由が示されることで、自分の立場や目的に合った訳語が選べるようになっています。一つの用語に複数の「推奨訳」があるようなイメージです。

有識者たちの知見や彼らとの議論から多様な考え方を俯瞰しながら、その中から自分の目的に合った表記を選べる、つまり「伝えたい」目的に沿って、対象者に「伝わる」訳語が選べるガイドライン、それが「工芸英訳ガイドライン」です。

対象は工芸ですが、固有の文化を異なる言葉に置き換えていく際の基本的な考え方は、「伝えたい」思いのある方、「伝わる」英訳をしたい方の参考になるはずです。英語表記の細かなルールなども載っていますので、ぜひご一読ください。最新版の「心構え・基礎編」は以下からダウンロードできます。

【工芸英訳ガイドライン】「心構え・基礎編」が完成しました! | The Creation of Japan

]]>
輪島塗の翻訳語、海外ニュースで見てみたら? https://craftweek.jp/column/73181 Thu, 09 May 2024 07:29:17 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=73181 日本語でも難しい工芸の用語。これを海外の言葉で正確に伝えるのはとても大変です。さらに、英文には正しい表記や特殊語の扱い方にルールがあります。ザ・クリエイション・オブ・ジャパン(CoJ)は、「伝えるため」の言葉のみちづくりとして「工芸英訳ガイドライン」プロジェクトに取り組んできました。ここでは、なぜなぜこの活動が必要なのか、具体的に何をやっているのか、今後の展開は?など、この事業に興味のある方はもちろん、海外での展開を考えている文化関係のかたや、「翻訳」に興味のある方に、楽しく読んでいただければと思います。

「輪島塗」を英語で表わすと?

先月、日本の岸田首相が訪米した際、今年の能登半島地震からの復興を目指す輪島塗のコーヒーカップとボールペンを、バイデン大統領夫妻に贈呈したというニュースがありました。

このニュースは日本語のみならず英語でも多く報道されましたが、この連載でお伝えする「工芸英訳ガイドライン」に関わる者としては気になります。何が気になるのかというと、「“輪島塗が英語にどう翻訳されていたか」です。

そこで、少し調べて見ました。結果は以下の通りでした。(※「英訳語」を知りたいので、日本を拠点とするメディアの英語版から抽出。太字が英訳語、リンク先が出典)

・Wajima-nuri lacquerware
https://www.asahi.com/ajw/articles/15225828
https://www.japantimes.co.jp/news/2024/04/11/japan/kishida-present-to-biden/
https://japannews.yomiuri.co.jp/politics/politics-government/20240410-179734/

・Wajima lacquerware
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20240410_33/

・”Wajima-nuri” lacquerware
https://sp.m.jiji.com/english/show/32317

・Wajima-Nuri
https://japan.kantei.go.jp/101_kishida/diplomatic/202404/09dinner.html

ざっと調べた範囲では、“Wajima-nuri lacquerware”という英訳が多く見受けられます。「輪島塗」をそのままローマ字で表記した上で、「漆器」という意味の“lacquerware”をつけるという形ですね。

“nuri“という語がなくて“Wajima lacquerware”という訳語を用いている記事もありましたし、ローマ字表記のみの“Wajima-Nuri”(この場合の”Nuri”の”N”は大文字)もありました。

「輪島塗」という同じものを指しているのに、どうして訳語が何種類もあるのでしょう?
いずれも「正解」としてもよいものでしょうか? 
そして何より、これらの訳語は「輪島塗」を正確に伝えられているのでしょうか?

伝統工芸品を英語で伝える難しさ

輪島塗のような伝統的な工芸品は全国各地にあり、訪日観光客にも人気です。工芸にまつわる施設のPRや、商品名やその説明のために英訳が必要な場面も多くなっていますが、それが担当者にとっては大変な作業となります。

担当者の目線で想像してみてください。ある言葉をインターネットで検索すると、英訳語がいくつも出てきます。同じ工芸品なのに、博物館、美術館、また自治体によって異なる訳語が使われていてバラバラです。どれもがそれらしく見えたり、そうでないようにも見えたり。そこには基準も決まりもありません。誰かに何かを訊ねた時に、相手によって違う答えが返ってくるようなものです。それだけでも、工芸の英訳がいかに難しいことかが分かります。

以前、大阪メトロの英語サイトで、堺筋線を“Sakai Muscle Line”(堺筋肉線)と表記されて話題になりました(注1)。それ以来、自動翻訳の結果を確認せずにそのまま使用するということは少なくなっているかと思われます。しかし上記のように何種類もの訳語が生まれることはよくあります。

伝わらなければ意味がない !

では、「輪島塗」はどう表記すればよいのでしょう?
意味が正しく伝わっているならば、どんな表記であっても問題ないと言えるでしょうが、ザ・クリエイション・オブ・ジャパン(以下CoJ)の「工芸英訳ガイドライン」プロジェクトの調査によると、中には「意味を伝えられていない」表記もあるのです。

今回のニュースで見られた4種類の表記に加え、さまざまな図録、書籍、Webサイトを調査すると、ほかにも以下のような英訳事例がありました。

◎Wajima lacquerware
◎Wajima lacquer ware 
※ただし、Merriam-Websterなど”lacquerware”を収録している辞書あり
◎Wajima lacquer

Wajima urushi lacquer ware(①) → ◎ Wajima urushi lacquer ware(③)
Wajima nuri (Wajima lacquerware) → ◎ Wajima nuri (Wajima lacquerware)(①’, ③)
Wajima-nuri lacquerware(①, ⑤)
“Wajima-nuri” lacquerware(①, ⑤, ⑥)
wajimanuri (②, ④)
Wajima-Nuri(②, ⑤)
Wajima-nuri (②, ⑤)

◎がついているものは、英語を母国語とするプロの翻訳家を含む、さまざまな専門家との議論や調査を重ねた結果、CoJが推奨したい表現です。推奨マークがなかったものについては、英語読者に「通じるか」という点で、以下の指摘がありました。

①“urushi lacquer” (音のローマ字表記+英語訳)のような「意味の重複」は避けた方が良い
※urushiをイタリックにしたり、後ろに補足説明として()に英訳を入れる場合は別
→①’のWajima nuri (Wajima lacquerware) はOK

②日本語の音訳としてローマ字表記するだけではまず伝わらない

③音訳を使いたい場合、固有名詞以外は日本語であることを示すイタリック表記にする

④Wajimaのような固有名詞は語頭を小文字にするのは間違い

⑤ハイフンは多用しないほうがよい(世界的にハイフンを使わない動きあり)

⑥クォーテーションマーク(“ ”)も多用しないほうがよい

結論:「〜塗」「~漆器」英訳する場合、“nuri”“shikkiは不要。
~lacquerware~lacquer wareという表記は英語圏で伝わるため、販売・観光に関わる人には推奨。

①解説
urushilacquerを同時に使うと意味の重複になります。一方で例外として、東大寺をTodaiji Temple、 淀川をYodogawa Riverとした表記を目にすることがあります。deratemplegawariverで意味が重複しますが、著名な寺社仏閣や、川や山の名称ですでに定着したものでは、このように表記する場合があります。
しかし工芸品の名称では、意味の重複は避けるのが原則です。

②解説
Wajima-nuriのようなローマ字表記は、調べてもよく分からなかった場合などに、苦肉の策として使ってしまいがちです。けれどもよく考えると、固有名詞であるWajimaはそのままだとしても、nuriが何のことを言っているのかが一般的な英語話者にわかるでしょうか。対象者を戸惑わせる語は、使わないように心がけたいものです。

③解説
イタリック表記というのは、英語話者にとって意外に重要なキーポイントだそうです。英語ではない言語を指しているんだな、とわかるため、深く考えなくてすむのです。つまり、読み手を疲れさせないということになります。

④の指摘は単純な表記間違いですが、こうしたうっかりミスはどうしても多くなってしまうので、気をつける必要があります。

⑤、⑥は編集方針や文脈によるそうです。

それぞれの工芸品に対する訳語のありかたについてや海外の評価がわかります

日本の工芸を発信するために

最近は日本文化の注目度が高まり、海外での認知度も上がっているため、日本語を音訳しただけのローマ字表記で通じる語もあるでしょう。先日も「金継ぎ」(注2)がイギリスのオックスフォード英語辞典にkintsugiとして追加されたというニュースがありました。そうした稀な例外もありますが、ほとんどのものは一旦「これで伝わるかどうか」と考えることが必要だと思います。


冒頭の輪島塗のニュースで、たとえばWajima-Nuriと表記してあるだけでは読み飛ばされてしまう可能性もあります。でもWajima lacquerwareと書いてあれば、少なくとも「漆器である」ということは伝わります。それが何であるかがわかれば「輪島を応援するために、自分も買おう」と思う読者がいるかもしれません。

せっかくよいものであっても、それを伝える言葉がなければ、正しく伝わらなければ、もったいない!
世界には簡単に翻訳できない言葉が、思いのほかたくさんあるのです。

私たちCoJは、「伝わる」言葉をインフラとして整備するべく活動しています。
次回からはその活動内容をより具体的にお伝えしたいと思います。
「工芸英訳ガイドライン」に少しでも興味をお持ちくださった方は、ぜひこちらをご覧ください。

「工芸英訳ガイドライン」ショート動画

ザ・クリエイション・オブ・ジャパン
「工芸英訳ガイドライン」紹介サイト
https://thecreationofjapan.or.jp/project/translation


注1:大阪メトロの英語版公式サイトで、マイクロソフトの自動翻訳機能を利用した結果、路線名の「堺筋線」がSakai Muscle Line、駅名の「天下茶屋」はWorld Tea House、「太子橋」がPrince Bridgeなどと表示された。(2019年)

注2:割れたり欠けたりした陶磁器を漆で接着し、継ぎ目に金や銀、白金などの粉を蒔いて飾る、日本独自の修理法。修理後の継ぎ目を「景色」と称し、破損前と異なる趣を楽しむ。現代では漆の代わりに合成接着剤を使うこともある。(小学館「デジタル大辞泉」より)

]]>