まなびのまなび – 日本工芸週間 https://craftweek.jp Mon, 20 Oct 2025 04:46:11 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=7.1.1 みんなのきこども園の「藍ものがたり」  https://craftweek.jp/column/74732 Wed, 11 Dec 2024 01:31:36 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=74732 子どものまなびにまつわる実践や場づくりをされている人たちと、彼らのアイデアや方向性に焦点を当てます。子どもたちが生き生きと学び、伝統工芸の面白さや美しさ、重要性が伝わるにはどうしたらよいのか? 
コンサバター(修復師)である筆者が、自身の分野を伝える際にもつ共通の課題を通して、“聞いてみたい” から得た視点を共有していきます。


京都府宇治市の黄檗にある「みんなのき黄檗おうばくこども園」。運営母体である「社会福祉法人 宇治福祉園」は昭和48年(1973)に設立され、府南部5カ所で認定こども園・自動発達支援施設などを運営しています。0歳から6歳までの子どもたちが集まるこのこども園では、「いのちを大切にする」という理念のもと、主体的な遊びや学び、生きる力を育む保育が実践されています。
原体験を育む場として、さまざまな取り組みが活発に行われていますが、藍染めもその中のひとつ。体験だけにとどまらず、藍を種から育て布を染めるまで、1年をかけてじっくりと取り組みます。

この藍染めをはじめるきっかけとなったのが、京都の染織家・斎藤洋さん。子どもたちと野外で20メートルほどもある真っ白な布を草木で染める「野染め」という活動を続けられて、20年。子どもたちからは「染めのおっちゃん」という愛称で親しまれています。

「色」を自然からいただき、布を「染める」という魅力を通して、ひとが生きるということへの思考が紡がれていく── 今回は、そんな染めのおっちゃんこと斎藤さんと、みんなのきこども園の藍ものがたりをお伝えします。

斎藤洋
京都・「風工房」主宰。1947年、横浜市生まれ。1971年から京都で染を始める。刷毛染で大胆さと繊細さを表現。全国各地のギャラリーの他、相国寺、無名舎など、寺院や町家での作品展を開催。ニューヨークで出会ったメモリアルキルト(AIDS/HIVへのメッセージを縫い付けた布)の精神は作風に大きな影響を与え、1990年「メモリアルキルト・ジャパン」を設立。ライフワークとして大人から子供まで大勢の人たちと長い布を野外で染める「野染」活動を各地で行っている。
杉本 一久
社会福祉法人宇治福祉園 理事長・幼保連携型認定こども園みんなのき三室戸こども園園長、社会福祉学修士、保育士、幼稚園教諭。
(一社)京都府保育協会会長、(公社)全国私立保育連盟保育・子育て総合研究機構研究企画委員、京都府社会福祉協議会理事など公職多数。
 40年余の保育を通じて「子どものうた」、「子育て応援ソング」多数作曲、関西テレビ「となりの人間国宝さん認定」(笑)
田中みゆき
社会福祉法人 宇治福祉園に入職後、三室戸保育園に保育士として15年、主任として10年、法人内にて異動となり、法人理事・みんなのき黄檗こども園の園長となって11年、保育現場を満喫している。
法人の保育活動である「藍」に出逢い、大阪総合保育大学大学院の修士論文(記事最後にダウンロードリンクを記載)では、藍の取り組みをテーマとするなど藍に魅了される。現職と並行し現場経験を生かし、近隣の保育教諭や看護師の養成校で非常勤講師を務める。令和元年より宇治市健康づくり・食育アライアンス事業副代表を務める。

遊びの足跡

斎藤さんと共に訪ねたこども園ですが、入口に停まっていた送迎バスに乗り込んだ子どもたちは斎藤さんの顔見知り。子どもたちとの元気なあいさつからその日は始まりました。

理事長の杉本先生と園長の田中先生が、まず園内を案内してくれたのですが、「遊びを満喫する」という言葉の通り、園内はどこもワクワクでいっぱい。いたるところにさまざまな素材を発見でき、遊びやものづくりはいつでも始まります。子どもたちのエネルギーにあふれた雰囲気に、自然と笑顔がこぼれます。

斎藤さんとこども園の子どもたち ©森尾さゆり

ボックスに仕分けられた多種多様な素材は、子どもたちが次々に使っていくため、すぐに空っぽになってしまうそうです。訪問中も、子どもたちがかわるがわる自分たちが作った作品を見せに来てくれました。園の理事長である杉本先生は、「片付け」についてこう語ってくださいました。

「‘片付ける’ ということと ‘あそびの場’には、いつも葛藤がありますよね。なので、遊びを保存して、遊びの続きができるようにしています。担任の先生たちも、子どもたちがたくさん作るので、どれが捨てて良いものなのかわからない。これは大丈夫かなと思って見ると、その先に紐がついていて『もしかたら、これはシャワーかもしれん』とか(笑)。見極めがすごく難しい」

こども園の室内 ©森尾さゆり


子どもたちが素材と親しみ、想像力を存分に発揮して遊んだ痕跡を、「遊びの足跡」としてできるだけ残すようにしているそうです。片付けはするものの、遊びの続きができるようにしているのは、子どもたちの主体的な遊びを促すためのひとつの工夫。

子ども時代に遊びを存分に楽しむことが生きる喜びとなり、それが意欲や生きる力の源になります。みんなのきこども園では、そうした「原体験」を育む場として、さまざまな取り組みが行われています。

テラスでお絵描きする子どもたちと虫かご ©森尾さゆり

今回取材した「藍ものがたり」もそのひとつ。一年を通して行われる多様な活動すべてに共通して大切にしている視点は、「過程を味わう」ということ。
例えば、年末に搗いた餅の鏡開きでは、無病息災と子どもたちの健康を祈り、出世魚であるブリを解体するのだそうです。業者さんや卒園生のお父さんに来てもらい、6~8キロのブリを3匹ほど用意して、子どもたちの目の前で捌きます。園長の田中先生は言います。

「解体で臓器も取り出すので血も出ますし、この『さかな』という存在も、ついこの間まで海で生きていたもの。みんなのところに来てくれたから、ありがとうの気持ちでいただこうということを伝えています。それはお野菜も同じです。自分たちが生きていく上で力になってくれているから、ありがとうって。
ブリはブリしゃぶにしていただくのですが、食べるときのゆずポン酢も、山からゆずを採ってきて、子どもたちが自分でゆずポン酢を作ります。出来合いを買うのは簡単ですが、できるところは子どもたちと一緒に過程を味わうことを心がけています」

過程をみんなで味わう経験は、自然や環境、そして日々の生活の中でそれらがどのようにつながっているのかを想像する力を育みます。

「草木染も藍も、卒園までずっと同時進行で楽しむので、冷凍庫を開けたらジュースの代わりに、いっぱい冷凍染料がならんでいるんですよ。お野菜も育てたら、夏は枝豆を食べて、それが終わったら大豆ができて、それを味噌に繋げるということをずっとやっています」

野染めのおっちゃん

自然のサイクルと共にある生活の中での手仕事につなげた保育として、みんなのきこども園が草木染めをするきっかけとなったのが、冒頭で紹介した”染めのおっちゃん”こと斎藤洋さん。

斎藤さんは1971年に東京から京都に移り、住み込みで染物屋で働いたことをきっかけに、染めの世界に入りました。その後、独立して染めを続け、2011年からは工房兼ギャラリースペース「風の布・パピヨン」で活動されています。

ギャラリー風工房の様子 ©斎藤洋

斎藤さんが、20メートルほどの晒木綿を木と木の間に張り、染めて分け合う「野染め」を始めたのは2000年。これまでに2万人以上が野染めを体験しています。
青い空が広がった野原や公園で大きく真っ白な布に色を染めていく行為は、とても開放的で自然と笑顔がこぼれます。こうしてできた大作は、絶対にひとりでは出来ないと斎藤さん。

「こないだやってみたら、やっぱり”自分の作品”みたいになってしまうわけ、どうしても。俺一人でやってるからさ。ラインとかも染みついちゃっているわけでしょ。でも子どもは小さければ小さいほど目の前の面積だけで楽しんでいてさ、それが全体から見たら、すごくかっこいいわけだよね。前から分かっていたけど、野染めは絶対ひとりじゃ出来ない。あんな凄いの。改めて分かった」

そんな野染めですが、参加者は子どもだけではないそうで、こんなエピソードも伺いました。

「街中の公園とかで許可を得て開催するから、いろんな人が来るんですね。昼休みのサラリーマンとかも『おもろい!』とか言って。そしたらね、シャツ着てネクタイしているんだけど、そのネクタイを刷毛がわりにして色をつけてて。で、シャツにぴーって色がついても、楽しそうにしてて。もう黙っとこうと思ってね(笑)。そういう人は、なにか突破しちゃうとすごいよね。夢中になっちゃってね」

斎藤さんと野染めを楽しむ子どもたち ©みんなのきこども園
手ぬぐいを筆代わりに布に色を染める子どもたち ©みんなのきこども園


色づくりの出会い旅

大人も魅了する野染めを、みんなのきこども園で初めて開催したのは、2000年。そこから自分たちでも草木染を始めてみることになり、自然の中にあるもので染めるという探究に、子どもたちは好奇心をさらにふくらませていきました。

「子どもたちも‘色をもらっている’という感覚があるんですね。するとそこから疑問もでてくる。飲んでいるお茶にしても、これは染料になるかなと実験したり。人間が生きていく上で欠かせない衣食住のところを通して、‘共にある’ 感覚は、子どもがダイレクトに感じてくれているかな。毎年いろいろ実験しはって、茎でも染めができるんかとかね。いろいろそのときのひらめきを全部やるので、もう成功や失敗がない世界」

という田中先生に杉本先生が続けます。

自然からいただいた色の記録 ©みんなのきこども園


「斎藤先生と一緒にやっていた野染めで、子どもが『色が欲しい』ということを言い出すんですよね。あるときは桜色が欲しかったんです。そしたら、桜の木から取れるかも知れないと。そうすると園児が『園庭の木を切ってもいいか』というので、園庭の木はかわいそうかもしれないねということで、結局森林組合の方に間伐材の杉皮をいただいて。それで煮出してコトコトやると、白い布から少し桜色に染まったんですね。そのちいさな変化に、子どもたちの顔が本当に輝くんですね。ちょっとしか色は変化していないですけど、そのこまかな変化を、瞬間的に敏感に感じ取る子どもの感性が、すごいなと思いますね」

枝についた葉っぱも筆代わりに色をおいていく子どもたち ©みんなのきこども園

杉本先生のことばを受けて、斎藤さんが言います。

「普段、赤・黄色・青とか、そういうふうに色を分類していくでしょ。でも、微妙な色の違いみたいなものは、草木ならではなんだよね。昔の人がすごいのは、その一個一個に名前をつけたりしている。この桜色の時も、もともとの白と比べると、本当に色は少ししか変わらないの。わずかに薄っすら色がついているのをみて、子どもたちが『わーすごい!』って言って。やっぱり自分たちが煮だしてやっているからね」

化学染料から草木染へ

30年以上染めを続けてきた斎藤さんは、長らく化学染料を使用して作品を制作されてきました。ですが、東北の震災をきっかけに草木染に切り替えたそうです。

「化学染料を草木に変えて収入は極端に減ったけれども、まずからだが変わった。化学染料を扱っていたせいなのかダメージが来ていて、良くないなとずっと感じていたんだけど、なかなか変われなかった。でも東北の震災がきっかけで、私も変わらないといけないと思ったんだよね。思い切って変えたら、商売は駄目になったけど、体は良くなった」

斉藤さんが化学染料から草木染めに切り替えたと同時に、子どもたちとの野染めの材料も草木となりました。安全性も高く、身近なものでも色が出る草木染。しかし化学染料のようなはっきりした色は出ません。斎藤さんは先生方に切り替えた理由を話しながら、「派手な色は出ないけど、勘弁してな」と、思っていたそうです。しかしそのような心配とは裏腹に、子どもたちは自然の複雑さの中に、おもしろさや素敵さをどんどん見出していきました。


「本当にみんなのきこども園から教えてもらうことは、自分の中に大すごくおおきくあってね。仲間みたいな感じがしてきて。化学染料やっていたときとは、質的に全然違うんだよね。特にお子たちが。だってこっちが8色ぐらいをしているのをさ、26色とか用意してくるんだからさ。『何これ?!』みたいなものがいっぱいあるからね」

私たちが普段知っている「色」という分類で分けられない複雑な色味。香りも伴うその自然からのいただきものに、子どもたちの好奇心はどんどん反応していきます。

「だから、そういう世界が広がってたの。俺、知らんかったんだよね、そんなこと」

野染めで染めた布をたたんで色のものがたりのページをひらく ©森尾さゆり

きれいに染まった筆代わりに使った手ぬぐい ©森尾さゆり

藍のものがたり

自分でやってみることで見方や感じ方が変わる。それは、分野は違っても多くの方が共感されるのではないでしょうか。こども園では、藍染も衣食住にまつわる「生きるための活動の体験」として取り入れています。

「最初のきっかけは、斎藤先生との草木染やったんです。いろんなお花を煮立てて出た色を、アルバムみたいに貼って草木染の図鑑を私たちが作っていたんですけど、それを絵本のようにいつも子どもたちが集まって見ていて。それで、青がないということを子どもたちが言い出したんです」

たくさんあるのは茶色や黄色。それをいつも見ていた担任の先生方が、前もって藍の種は探し出していたそうですが、子どもたちが言いだすまで、大人たちから青を提供することはしませんでした。斎藤さんはいいます。

「実は緑もないんだよね。基本、緑は出せないんです。でも、これだけ自然には緑がある。緑の色素があるから緑に見えるわけで、でも煮出すと緑は大体茶系か黄色系かになる。そこで、藍っていうのがあると緑ができるし、黄色はいっぱいあるからね。それだけ特別なものなのですけど、あれってね、藍といっしょに過ごしていないといけないわけ。藍を”飼う”っていうんだけど」

そうやって、子どもたちの「青がほしい」から始まった藍に、年ごとに名前をつけるそうです。

あいのかんさつ記録 ©みんなのきこども園

子どもたちはこの藍のストーリーを、記録し研究します。種を植えるところから収穫までの畑の管理は子どもの担当。収穫した葉を発酵させてすくもをつくり、藍建てから絞りを行い染めるまでは、大人と一緒に。
「藍染」の全工程を、子どもたちは体験します。土作りからするため、子どもたちは土のpHを測り、問題が起これば自分たちでまずその理由を探ってみます。大人が子どもの問題解決の機会を奪うことはしません。

「枯れたらね、『なんで枯れてるんやー!!』言うて。そしたら、茎に穴が開いていることが分かって、そこから虫が出てきたとか。それもまた物語」

と田中先生。

「最後出来上がりのときは、温度とか藍の匂いで今日は元気やとか、ちょっと元気ないとか、子どもたちが言い出すんです。元気なくて腐敗の方に傾くと、少し動物性のある匂いに変わるんです。子どもたちは自然の現象にダイレクトに五感で反応するから、本当に臭いときは遠慮もなく『くっさー!!』というんですね(笑)。それから、藍は爪のタンパク質に反応するので、すぐ指先が青く染まるのですが、そのつき具合を見て、今日は元気やとか元気ないとか言わはるんですよ」

こども園で育てた藍の葉っぱ ©森尾さゆり


藍染めを始めるのは年長さんからです。そんな年長さんが、まるでクッキングのように藍をぐるぐると攪拌する様子を、年中さんたちは「なにしてんのー?」と興味津々に見ています。年長さんが卒園するときには、次の代に鍋などの道具をバトンタッチする引継ぎ式が行われるそうです。藍職人さんのように、手が青くなることを憧れのように見ていた年中さんたち。次こそは自分たちの番です。

一年を通して続くこの「藍ものがたり」ですが、どのようにして子どもたちの関心を、そのプロセスに長期間向けさせているのでしょうか。田中先生は言います。

「子どもだけでも多分続かなくて、やっぱり職員自身が楽しんで心動かしながら、子どもと一緒になって、一緒になって問いを投げてみたりだとか、感動を味わったりしていることの繰り返しが、ずっと持続していくということにつながるのかなと思います」

みんなのきこども園ではご縁があり草木染や藍染につながりましたが、杉本先生は他のどんなことでも良いのではないかと提案します。

「本当に真剣に思ったことは、じっくり1年間を通してやる。何でもいいので。そこに職人さんだとかが関わっていく。そんなことが、全国で起こればいいのにとすごく思いますね」

自分たちで育てた藍で藍染め ©みんなのきこども園

ぬか床のような場

先生自身が心動き楽しんでいることが大事とおっしゃる田中先生ですが、この藍の活動に子どもたちのこころを掴む不思議な魅力があることを知り、その研究の為についには大学の修士論文まで書かれました。

「この子ども園での藍染の記録を使って、子どもたちがなぜこんなに1年間、興味を持ち続けて展開していけたのかを研究したのがこの論文。藍を種から育てて藍染をするまでの取り組みの中で、どのように子どもたちが気づいたり、好奇心を高めたり、それが1年間持続するのかというところに関心がありました」

「ごっくんごっくんっていってるで~」──水が土に吸い込まれていく様子。
「わぁ、あおくなった!」「しょくにんさんの手やで~」──自分の爪が青く染まっていることを喜ぶ子どもたち。
論文には、子どもたちが一つひとつの取り組みに驚き、楽しみ、発した言葉が記録されています。それらを丁寧に拾い、どのような活動がどんな心の動きを促し、それがどのように気づきや学びにつながったのかを分析します。こうして明らかになった活動と学びの関係性の理解が、子どもたちの「生きる力」を育てるために活かされていきます。

「園の創設者も、最初はこの『命を大事にする』ということも人間の世界だけで考えたみたいなのだけど、でも子どもたちにとっては、ダンゴムシだったりお花だったり、環境も実は保育をしていて。自分の命が本当に生の次元まで降りて行っている。だから命を大事にするっていうのは、人間だけじゃなくて、環境と多様な生命体との共生も含んだ命ということで。子どもたちを見ていても、まさにそう思います。
やっぱりキーワードは『多様性』ではないでしょうか。みんなが何かにそれぞれに夢中になる、それが多様に混ざり合って、それらがどんなふうに発酵していくか。園全体が、じっくり時間をかけて物語がいろいろなかたちで湧いてくるのを見守る、ぬか床のような場だと思っています」

あいのはっぱでじっけんちゅう ©森尾さゆり

子どもが目を見張るものに一緒に視線を向けられること、そこで湧き上がってくる気づきや疑問に寄りそうこと。自然の色で布を染めるという昔からの営みも、自分の生活に引き寄せると、全く違う経験となります。 
染織と長く向き合ってきた斎藤さんふとが漏らした、原点を忘れない問いが印象的でした。

「どうやって染めという作業が始まったのかなと考えているんだけど、なんかだいぶ昔からやったと思うんですよ。でも、その最初のさいしょはどうだったのかなと思って。子どもがあそんだり、男が猟から帰ってきたりして、いろんなものが布にくっついたりするでしょ。土とか草とか。それを『おもろいな』って思った人がおるんじゃないかな」

その原初的な喜びが、斎藤さんや子どもたち、そしてみんなのきこども園の先生たちの間に流れているように感じました。

取材協力

社会福祉法人 宇治福祉園 みんなの木こども園
https://ujifukushien.net/

斎藤洋「風の布・パピヨン」Facebook  
https://www.facebook.com/papillon.kaze

田中みゆき
「継続的な活動において広がりと深まりが生まれていくために ~年長児による『藍染の一年間の取り組み』の分析~」
大阪総合保育大学大学院博士前期課程修士論文,2017年
【ダウンロードはこちらから】
 https://drive.google.com/file/d/1hwFXghfgahD_abKkd-FGOiaOgwhLK2B_/view?usp=sharing

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子どもの新しい可能性をひらくNPO法人アートフル・アクションの場づくり https://craftweek.jp/column/72571 Sun, 10 Mar 2024 02:43:31 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=72571 ここでは、子どものまなびにまつわる実践や場づくりをされている人たちと、彼らのアイデアや方向性に焦点を当てます。子どもたちが生き生きと学び、伝統工芸の面白さや美しさ、重要性が伝わるにはどうしたらよいのか? コンサバター(修復師)である筆者が、自身の分野を伝える際にもつ共通の課題を通して、“聞いてみたい” から得た視点を共有していきます。

伸子で呉汁下地をしているところ ©NPO法人アートフル・アクション

多摩地域を中心に、アートを通して新しい可能性や豊かな生き方に気づいていくきっかけや場づくりを目指すNPO法人アートフル・アクション。4つのプロジェクトからなる「多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting」の取り組みを、「東京アートポイント計画」の一環として、アーツカウンシル東京との共催で実施しています。

今回取材したのは、その中のひとつである「ざいしらべ」。基盤となっているのは、技術や素材に触れ、リアリティを持って世界を知っていくことの大切さです。現代社会で利便性が増していく中、どんどん減ってきているのは、自然やものに対する知覚や身体感覚のある経験。追い打ちをかけるようにコロナの影響により、リアルな経験の機会は更に減少しました。

宮下美穂 みやした みほ  NPO法人アートフル・アクション理事
美術大学でデザイン、農業大学で造園を学び、環境系シンクタンク、NPOで働く。その後ランドスケープデザイナーとして独立。並行して2009年にNPOアートフル・アクションの立ち上げ、運営に携わる。東京都小金井市、東京都、アーツカウンシル東京などと共催しつつ、市民の皆さんとアート、文化をきっかけにしながらさまざまな活動を展開。山間に拠点を移し、東京と往復。その中で見えてくる人と土地の関係について考え中。

道具を通して素材そのものと向き合う

ざいしらべは、主に多摩地域の小学校の図工の授業を通して、先生と一緒に授業を企画、実施するプロジェクトです。出会いにくくなっている素朴で豊かな技術や素材に触れる。その時に材と自分との接点となるのが“道具”です。

「物としての道具の面白さもあるけれど、それを介して素材とその背景にある自然に出会うことができるといいと思っています。よいノコギリは、樹木とのよい出会い方をさせてくれる。それは、チェーンソーでバッサリ切るのとは違う出会い方。そこで切るために費やされる時間があって、費やされた時間によって、関係性も変わってくる。身体の使い方が悪ければうまくいかなかったり、様々なレスポンスが行為から生まれる。そういう意味で、道具はとても大事だと思っています」   

広葉樹を素材にした造形の様子 ©NPO法人アートフル・アクション
広葉樹を主題とした造形の後、校庭を大きく使って描いてみる©NPO法人アートフル・アクション

そんな宮下さんの本業は、庭師。造園家として山の仕事もしているそうです。身体性を持った自然やものとの関わり方はますます必要になっていますが、一方そのような経験は、けがをするリスクがつきものです。危険性のあるものは直ちに回避されてしまう現在、アートフル・アクションでは、積極的に刃物も使います。けれど、今までにひとりも大怪我はなく、クレームも一度もないそうです。

「怪我をするような事故を起こさないために、入念に準備をしています。それは、監視を強化するわけでも、禁止事項でがんじがらめにするわけでもありません。自然な状態の中で怪我をしないように、なぜ怪我するようなことが起こるのか、なぜ転落をするのかなど理由を考えます。例えばすごく狭かったり、何かの理由でその日落ち着かない子どもがいたり、様々な要因で怪我をするわけですが、そういった要因に対して、ケアをしたり取り除いていくことで怪我を未然に防ぎます。なので、監視する大人を増やすというよりは、怪我をしない状況をつくることの方が大事です」

「面白いと思ったのは、例えば割った竹は結構ささくれているのですが、小刀を渡して『面取りしてください』と言うと、好きな子は授業の90分間ずっと1人で面取りしているんですよ。普段やんちゃな子が、4メートルに割いた竹を1人で地面に座って面取りしていて、時々触って確認しているんですね。私は、それはそれでいいと思っているので、もう放置。でも、その子は多分怪我はしないだろうし、たとえ怪我しても大きな怪我にはならないんです。私たちにはいろいろな子どもが視界に入っていますが、その子の性格や、その子と周りの子の関係性も含めて見ています。それは、初めて出会った子どもでも同じです」 

面取りの様子 ©NPO法人アートフル・アクション

「面白い」や「やってみたい」を大事にする

「竹の面取りに夢中になった子は多分、小刀を媒介にして素材と対話しているんですよね。ならばそうやって時間を過ごしていたらいい。形になることはゴールではないのです。最初は人真似でもいいし、大人の真似でもいいのですが、何かのきっかけで、どうもこれが面白いらしいとか、やってみたいということを見出した子は、それをやればいいと思うのです。その状態を目指しているわけではなく、促すわけでもなくて、止めもしません。その子どもから発現することを大切にします」  

面白さや、やってみたい!を発見した子どもは、自分から素材に向き合っていきます。しかしそこで、自分の好奇心が発動しない子ももちろんいます。「友達が作った竹のドームの中で寝る子も出てくる。でもそれはそれで、また違う世界を見ている」という宮下さんは、達成することに主眼を置きがちな学校での学習目標に対してこう提案します。

「学校の先生が “集団で竹のドームを作る” というような学習目標を立てると、そこから逆算しての評価になっていく。だけど、素材と出会うという学習の目標を立てれば、竹のドームの中の藁の上で寝ていてもいい。そこはすごく大事で。先生たちは、仕事として評価しなければいけないけれども、なにを軸に評価をするのか、その評価のあり方自体をもっと広げられたらいいのではないでしょうか」

「図工の時間でも、手を動かして触れて、素材そのものと向き合っていくことで、自分が素材や道具、それらとの出会いから生かされているし、自分が生かしているというようなことを経験していく。それを通して、その子がその子として生きていけるということがもし起こりうるとしたら、造形の可能性はそういうところだと思っています。大事なのは作品をつくること自体でも、完成させることでもない。今のあなたそのままで生まれてくるものを待つよ、ということでいい」

図工の先生方とのワークショップ ©NPO法人アートフル・アクション

子どもはゼロではない。子どもが選び取るまで待つということ

アートフル・アクションでは、小学校で1週間に90分ある授業を、複数回でひとつのプログラムを企画しています。あるときは小学校3年生の授業のために、腰機(こしばた)のフレームをつくり、織物の授業を行ったこともあるそうです。

「びわと玉ねぎと藍で、毛糸を染めるところからやりました。腰機のフレームも100個作ったんですよ。自分の腰に巻いて机の脚に縛り、縦糸10本で。はじめのうちは3年生には絶対無理と言っていた方もいましたが、そんなことない、やればできると。やってみたら、面白かったですよ」

腰機の様子 ©NPO法人アートフル・アクション

機織りは、単純作業の繰り返し。しかし、宮下さんはそこにクリエイティブな要素を見ています。


「同じことを繰り返すことにある思想性みたいなものはすごく大事。一瞬にしてなにかができるというのではなくて、飽きてしまうような単純なことを繰り返しやるということが、すごくクリエイティブだと思う。淡々と同じことを繰り返すということの中で、発見するもの、気づきがあって、それと呼応して身体がどんどん変化していくにつれて、認識も変わっていく。それを小学3年生が3年生なりの経験の中でやるというのは、とても面白いと思います」 

作業によって身体の使い方が変化していき、それに伴って世界の認識も変わる。それは単に教えられたことではなくて、それぞれに素材と自分の身体性が関わって引き出された学びです。

宮下さんは、子どもは教えないといけないような無の存在ではないといいます。子どもはむしろ全体=Wholeで、大人が大人の価値観で子どもにそれを押し付けることによって、その子どもが持っている全体性が、痩せてしまっていることを危惧しています。

「子どもってできないことは何もないと思うんです。けれど、あれは危ない、これは時間がないからダメ、あるいはやったことがないからと、どんどん可能性を小さくしていってしまって、子どもの持っている全体性のようなものは、痩せてしまう。でも本当は、人間として生まれてきたその時点で全てを持っていると思うので、それを大事にしてあげた方がいい。つまり、ずっと待って、いじらない方がいいと思うんです。だから、子どもには与えるというよりも、子どもが選び取るまで待つ」

広葉樹を主題とした造形の後、描いてみた ©NPO法人アートフル・アクション

ひたすら問いかける

子どもの好奇心が動き出し、自分で選択するまで待つということ。その時に、まわりの大人はなにが出来るのでしょうか。

「プロセスも、教えないこともあるんです。例えば竹を置いて、これどうやったら割れると思う?とか。むしろその方が、大人が思いつかなかったようなアイデアが出てきたりするんですね。正解は1つじゃないから。上手く割れないかもしれないけど、その上手く割れないことは他のことに使えるかもしれない。だから、1対1でひたすら問いかける。いきなり伝統工芸の職人みたいな答えは出てこないけれど、かなり物事の本質に近いことを言う子も出てくる。でもそれは、その子の本来持っているものが、何かのきっかけで発現しているのだろうと思っていて、大人が教えたこととは違うんです」

ざいしらべプロジェクトの根底には、人間はやって見る前にできないと決めつけてしまうことはない。教えられたことではなく、生み出されること、それを探究したい、つまり 「人とは何か」 ということを考えたい、という思いがあります。

「自然素材に触れればそれだけでいいと思っているわけでも、それがミッションというわけでもなく、素材に触れることを通して人間の可能性をできるだけ大切にして、小さなところに閉じ込めてしまわずにいることが大切だと思ったんです」

そう言う宮下さんは、機織りでできた子どもたちの創作物の写真を見せてくれました。生徒はみんな同じ機を使って同様の作業をしていますが、写真に写るそれぞれにでき上がった布の様相は、とても個性的。それは一人ひとりのからだと動きの結果です。

単純作業の繰り返しのなかにもクリエイティビティがある一方、逆に、芸術家を講師として招いたプロジェクトで、あまり上手くいかなかった経験もあるそうです。それは、作家としての個人の世界観が強く出てきてしまったからなのだそう。学びの場には一筋縄ではいかない難しさがあります。

様々な織り ©NPO法人アートフル・アクション

今まで企画されてきた中でも、特に印象に残っているプロジェクトを伺いました。

「面白かったのは、マタギのおじさんに来てもらったこと。生き物を殺すということは、どういうことなのかということを経験してきている人がいたら良いと思って。小学校6年生の教科書に宮沢賢治の『やまなし』が載っていることから、宮沢賢治の書いたものを主題にしてみたいと思いました。そこで『なめとこ山の熊』で授業をしてみたいと思ったんですね。そうしたら、知人を通して秋田からその方が来てくださって。猟をする時のジャケットや、獣をさばいた刃物、そして熊の手や心臓などを持ってきてくれました。最後には、彼に『なめとこ山の熊』を秋田弁で朗読してもらいました。それをテーマにして、写し絵で作品を作りました。
自分が体験し得ないことをどのように想像するのか、どのように自分のこととして考えることができるのかという意味では、そこにマタギのおじさんがいることや、宮沢賢治がいることで、子どもたちにとって生き物を殺めることも身近なものになると思うんです」

思考停止に陥らない

「子どもにどのように生きて欲しいと願うかということは、今私たちがどう生きているのかということと、同じようなことですよね。私たちの社会はどういうものであって、人間はどのように生きていったら良いかということが、社会において全く考えられていないというか。人間に対する理解のなさや浅さのようなものが全部、子どもが育つ場にも、教育にも流れ込んでいる。社会全体がそういった点で、とても脆弱な気がします」


「具体的な素材とか技術の問題、あるいは道具の問題というよりは、探究の入口のところで思考が止まっているということが、教育現場での1番の問題かと思います。

例えば、私は子どもの頃、万力が図工室の机に噛ませてありました。でも、今まで行った学校ではほとんど、万力は取り外してしまっているんですね。どうしてないのかと聞いたら、誰かが友達の指を挟んで回した事があったと。万力は危ないから外してしまう、現場の判断としてはそうなるかもしれません。ただ、それではあまりにも短絡的で勇気がなさすぎると思う。何かかなり手前の段階で思考停止に陥っていますよね。
なぜその子は指を挟んでみたいと思ったのかということを、恐れずに考えた方がいいと思うのです。戦争の話もそうですけど、人間はここまでのことをやる生き物だということはしっかり考えた方がいい。自分は殺さないかもしれない。でも、ひどいことをなしうるのが人間であるというようなことも、考えないといけないと思うんです。ではどうしたらいいのかということも。答えはひとつではないですよね」

植物から抽出した絵の具で子どもが描いた絵 ©NPO法人アートフル・アクション

探究し考える過程で、失敗や思い通りにならないことは多くあります。ざいしらべのサイトには、プロジェクトの紹介ページがあり、それぞれの企画の報告に加えて、失敗もふくめ過程の記録があります。それらは、他の先生方やワークショップをする人が再現する際の参考となります。

「先生たちにとって、再現性があることや、私たちがいなくてもできるということがすごく大事。でも、例えば染めにしても、植物は日によって出る色が全く変わるので、思った通りにならない。思った通りにならないことも楽しめたり、うまくいかなかったからといってビビらないでくださいみたいなことは、大事だと思うんですよ。書いてある通りにならないと、今の人はしょげてしまうので。
思考停止に陥らないことや、そこから次へすすむ柔軟性が必要だと思います。目的に向かいまっすぐ走って、それを達成することがゴールではないですよね」

結果として形になることが着地点ではない――

その過程で可能性がひらいたり、豊かさに気づいたりすることが、子どもや大人、関わる人自身の中で起こることを大事にする。素材や技術との出会いも、そんな個人的に “目を見張ること“ があってこそ、その人が“ざい“と出会ったことになるのだと感じました。

取材協力

NPO法人 アートフルアクション

〒184-0004 東京都小金井市本町6-5-3 シャトー小金井 2F 

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自由にあそび、自由にまなぶ。せりがや冒険遊び場 https://craftweek.jp/column/71942 Sat, 10 Feb 2024 02:54:04 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=71942 ここでは、子どものまなびにまつわる実践や場づくりをされている人たちと、彼らのアイデアや方向性に焦点を当てます。子どもたちが生き生きと学び、伝統工芸の面白さや美しさ、重要性が伝わるにはどうしたらよいのか? コンサバターである筆者が、自身の分野を伝える際にもつ共通の課題を通して、“聞いてみたい” から得た視点を共有していきます。

岡本恵子 おかもと けいこ

「NPO法人子ども広場あそべこどもたち」初代代表、現理事、事務局。せりがや冒険遊び場プレーリーダー。大学4年から、上野動物園子ども動物園で子どもと動物が触れ合う場の指導員。目黒区碑文谷公園でポニーによる乗馬体験の指導員。

1997年より、小学校を使った遊び場、中学校を使ったフリースペース、地域の民地での冒険遊び場活動を続ける。過去に町田市子どもマスタープラン審議委員、町田市福祉のまちづくり推進協議会委員、子どもセンターばあん運営委員を務める。

せりがや冒険遊び場 ©せりがや冒険遊び場

東京都町田市芹ヶ谷公園せりがやこうえんにある冒険遊び場は、子どもの「やってみたい」を大切に、できる限り規制を無くした自然の中の遊び場です。町田市から常設型の冒険遊び場として選定され、地域住民が中心となって市の補助金を受け、NPO法人子ども広場あそべこどもたちが運営しています。
木や竹の茂った斜面にある遊び場に設置されたあそび道具や遊具は、専門家のアドバイスを受けながら全て手づくりされたもの。一帯は秘密基地のようなワクワク感に満ちています。

そんな冒険遊び場で、プレーリーダーとしてご活躍の岡本恵子さん。24年間冒険遊び場に携わられ、この活動は生きがいというほどの存在です。そんな岡本さんに、子どもたちが「自由にあそび、まなぶ」ということについて伺いました。

せりがや冒険遊び場であそぶ子どもたち ©岡本千尋

みんなでつくり合う遊び場

芹ヶ谷公園に冒険遊び場がオープンしたのは、2014年9月。地域の人たちからは“せりぼう”という愛称で親しまれています。この一帯は木や竹が生い茂っていたそうで、まず始めにやったことは、土地の整備でした。

「1カ月半ぐらいは木こり作業の日々でした。鬱蒼うっそうとした林だったので、細めの雑木や竹を切ったり、斜面しかないから平らな場所や階段を設けたりと。その後に、遊具などを制作していきました。でも、ここは運営者側が全部つくって提供するというよりは、みんなでつくり合う遊び場なんです。なので、地域の人たちも、あそびに来るお父さんお母さんも、一緒にここをつくる仲間だと思っています」

団体が発足したのは1997年。当初岡本さんは、近隣の小学校の校庭・図書室・体育館を月1回借りて、そこで子どもたちが自由にあそべる場を始めました。その後、中学校の放課後における「居場所不足の問題」にも取り組み、中学校の許可を得て調理室と多目的室を子どもたちにフリースペースとして提供。その当時の先生たちが “自由の幅を広げて自律を促す”という取り組みをしていたこともあり、中学校の施設を開放することが実現しました。そこで、中学生はヒップホップの練習をしたり、調理室で一緒におやつをつくったりもしました。

この頃、岡本さんは冒険遊び場づくり全国研究集会に参加し、もともと知っていた世田谷の冒険遊び場など他の地域で遊び場をつくる人たちと出会いました。岡本さんは自然の中で冒険する場の提供がしたいとの思いから、町田の地主さんの協力を受けてせりぼうの前身である成瀬の「三ツ又冒険遊び場たぬき山」の活動が始まりました。芹ヶ谷公園に遊び場をオープンするまでの15年間はそこで活動しました。

たぬき山 ©大西暢夫

自由と自律

中学校の先生の取り組みにもありましたが、自律を促すことを考える際に「自由」という言葉が出てきたことが私には意外でした。

「自分がやったことの結果は自分で受け止めて責任を持つことで、自分を自由にできるということだと思うんです。ここでは子どもたちが失敗や怪我、友達との喧嘩も含めて、すべて自発的に行動したことの結果を自分たちで受け止め、ではどうしたらいいかということを自ら考える。そしてまた一歩踏み出す、その繰り返しの中で子どもが自分で育っていくことを大切にしています。」

何をしてあそぶかは子どもに任されていますが、乳幼児からご高齢の方まで幅広い年齢層の方が集まる場であるため、安全対策には特に力をいれています。危ないことが起きないよう監視するのではなく、環境を工夫して防ぐという方法が取られています。

「高いところに登るような遊具もありますが、小さい子が登っては困るようなケースでは、階段をつけなかったり、もしくは最初の一段をすごく高くしたりして、小さい子が登れないよう工夫をします。でも、上に登ったところには柵は一切しません。柵をつけない理由は、それに頼ってしまうことと、柵の上に乗ってしまうことがあるからです。

危ないものはある程度危ないままにしておくほうが、その危険をちゃんと察知して、子どもが自分の身を守ることを身につけられますから、 そのような形でやっています」

遊び場は必ず運営の大人が3人体制です。それは何かあった時に、その子に対応する人、保護者に連絡対応をする人、そしてそれ以外の子どもたちを見たり、危険だった場所を人止めしたりという対応をする人といった役割が必要なためです。

やぐら ©せりがや冒険遊び場

せりぼうでは火が使えることにも驚きました。ファイヤースターターを使って自分で火をおこし、持ってきたマシュマロを焼く子どもたち。最近の子どもたちは火を見る機会が少なく、マッチもほとんど使わないため、摺り方がわからないこともままあるといいます。ここで火を使う理由について、伺いました。

「一つには火の温かさ。例えば調理するとか工作で火を利用するとか、火があることで人が集まって自然に交流が生まれるような体験を、子どもたちにしてもらいたいのです。もう一つは、火の危なさを実感として知ってほしいということも理由です」

本来は公園は火気厳禁ですが、子どもの体験のために行政や消防署から許可を取り、火が使えることになりました。

火を使用する場所は限定し、下には耐火レンガ、上にはトタン板が設置してあります。

安全に使うためのルールは、まず最初に必ずまわりの葉っぱ を掃く、紙と葉っぱは燃やさない(煙が多く出たり、火が付いたまま風に飛ばされたりという危険性があるため)、などいくつかあり、また、有害物質が出ないように、建材は何も塗られていない無垢の木だけになっています。

たき火 ©せりがや冒険遊び場
たき火でマシュマロを焼く子どもたち ©せりがや冒険遊び場

先回りして教えない

道具を使って自由に工作できるスペースもあります。そこでは大人が付きっきりでいることはありません。ナイフやノコギリは貸し出し制にして、その際に一人ひとりの経験を聞いてから、補助の必要性を判断するそうです。

「例えばナイフを借りたい場合は、ナイフを使ったことあるかどうかを聞いて、使ったことがない場合は教えます。本当に小さい幼児が使う場合は、お家の方と一緒にやってもらうのと、とても危ない使い方をしていたらちゃんと伝えます。できないから教えてほしいとか、やってほしいとか頼まれることもありますが、状況によって教える場合もあれば、一緒につくる場合もあります。

でも、ここで一番気を付けなくてはいけないのは、先回りして教えないこと。その子どもが自由にできるというのは成長のチャンスなんです。先回りすると、それを奪ってしまう」 

“先回りしない“ということは、あそびにおいても同じこと。

「大人がリードしてしまうと、子どもの中から生まれる自由な遊び方が削がれて、楽な方に子どもも行ってしまうんですね。大人の考えることって面白かったりするから、それで結構子どもは遊んだ気になってしまう。でも、それは子どもが本当にやりたかった遊びなのか。子どもたち同士で、とんでもない方向に広がっていくような、そういう遊びの芽を、大人が摘んでしまうことはよくあるので、それは気を付けています」

枯れ葉で遊ぶ子どもたち ©せりがや冒険遊び場

また、つくるお話を伺うなかで面白かったのは、“壊す”ということに話が及んだことです。

「木にしても土にしても自由に形を変えられるので、一回つくったものを壊せるということが大事です。“つくる”と“壊す”はイコールなんですよね。つまり、前の状態を壊して新しい状態をつくっているので、常につくることは壊すことでもある。壊すことが自由にできないと、しなやかにつくることもできないだろうなと思っています。 壊すのは悪いことでは決してないですものね。

電子ゲームは壊すとそれだけでもう終わってしまうし、使い方もある程度決まっているけれど、 自然の素材っていろんなことで遊べるから、それが素敵だなって思います。」

美術館との連帯ワークショップ

公園内にある町田市立国際版画美術館のアーティスト・イン・レジデンスとの連帯ワークショップも行いました。 公園の整備で伐採が決まっていたエゴの木を切らずに、みんなで根から掘り出して版木にしたというプロジェクト。実はその木は、子どもたちがいつも木登りをしていた木でした。市民400人が参加するという大掛かりなもので、切り出した材に電熱ペンで絵を描いて、それを版にして刷ったものを、版画作家さんが大きな作品の中に全部貼り付けて、一つの作品として完成させました。

「インプリントまちだ展 2019 田中彰 町田芹ヶ谷えごのき縁起」展 
イベント風景 町田市立国際版画美術館 ©せりがや冒険遊び場

また、釘ナイフづくりが日常の遊び場のなかで行われたり、工芸のワークショップとして、野染めを開催したりしています。

「釘ナイフは、七輪で火をおこしてそこに五寸釘を入れて真っ赤になるまで焼きます。金床かなどこの上にのせて、金槌で叩いて伸ばす。やすりで削ったあと最後に砥石で研いで、ナイフをつくります

そして染色。野染めをやっています。京都在住の染色家の斎藤洋さんが、 京都からはるばる来てくれています。幅1メートル、長さ20メートルある木綿の布に、草木から煮出した染料を使ってみんなで染める。染める刷毛はけは、最初のうち染色家が使う馬毛うまげの刷毛を使っていたんですけど、最近斎藤さんは、草を使ったり、小さく切った布を折って、絞り染めするような形にして染料をつけたりしています。最後に広げると絞り染めになっているんですよね」

野染めの様子1 ©岡本千尋
野染めの様子2 ©岡本千尋

子どもの成長の芽を摘まない

岡本さんは、プレーリーダーとして大事なのは “子どもが何をしたいかをしっかり感じ取り、それに沿って遊び場をつくっていくこと” だと言います。子どもは言葉で伝えることもありますが、つぶやきや行為という言葉以外の方法でも伝えています。それらに気づく目や耳をちゃんと持っていることが大切です。

岡本さんの経験として、こんなエピソードが強く心に残っています。

「そろそろ閉園になる夕方頃に、 机の上にあった蚊取線香の小さな残りを見つけた子どもが『これ火つけていい?』と聞いてきたんです。『もう閉園の時間だからつけなくていいんじゃない』と答えたけど、また『つけていい?』と。『そんなに蚊もいないから大丈夫だよ』って言ったけれど、それでも3回ぐらいその子がきて。

そこでやっと気づけたんです。あ、この子はただ蚊取線香に火をつけたいだけなんだ。私はそれを、“こうだからいらない”という理屈で、この子の体験のチャンスを奪おうとしていたんだと。つけたいという子に、『いいよ』と言えば済むだけの話だった。たとえすぐに消すのだとしても、その子はとにかくつけてみたかったんですよね。それを諦めずに言ってくれたことに、すごく感謝。大抵の場合、一言大人が返した時点で、子どもは諦めちゃうので」

「無意識に子どもの芽を摘んでいることはたくさんあって、常にその自覚を持たないと、大人にとって都合のいい場所になってしまう」そんな岡本さんの言葉に、自分を省みました。

釘ナイフ作り ©せりがや冒険遊び場

あそび方のいまむかし

“あそぶ”という行為の本質は変わりませんが、あそび方は時代と共に変化しています。昔と今とどのように変わってきているのか、岡本さんはこう言います。

「私が子どもの頃は、家の前の道が遊び場でした。そこでゴムはじきをしたり、ままごとをしたりして遊んだ覚えがありますが、今は道で遊ぶということがまずない 。お寺や神社の境内とかも普通に自由に遊べる場だと思っていたけど。今はなかなかそういう場所で遊んでいる子たちは見かけません。本来遊び場じゃない場で遊ぶ子どもたちが、今あまり見られないというのはちょっと寂しいですね」

イギリスのNPO団体London Playでは、プレイストリート(ご近所みちあそび)という運動をしていて、その活動は世界的に広まっているそうです。Tokyo Playもその一つ。例えば、住宅街の道を通行止めにして、地域の人たちとみんなで遊ぶ機会をつくる。地域の中での繋がりを生み、子どもだけのためではなく、 大人もそこで交流して、地域の子どもたちを知ることができます。

「最近は、周りの大人が地域の子どもたちを育てるということが、なくなってきています。でもこの冒険遊び場の中だと、ある意味大家族のような関係性が築ける。学校も年齢も違う子どもや大人たちがここで出会って、あそび仲間になっていきます。だから、不登校の子もよく来るし、その子が乳幼児のお母さんたちととても仲よくなるんですね。お子さん同士も仲よくなるし、小さい子の親御さんたちも、自分の子と遊んでくれる中学生みたいな感じで。

子ども自身もあそびを見つけられて、それによって変わることはとても大きいじゃないですか。大人が子どもを変えることよりも、子ども同士で子どもが変わることの方がずっと大きい気がします」

何もしなくてもいい

この冒険遊び場は、ワクワクが詰まっているような場所です。きっと子どもが何をしたらよいかわからないというようなことはないのだろうと質問したところ、慣れてない子の中には少し時間がかかる子もいるそう。まわりの子を見て次第に仲間に入っていきます。しかし続けて、岡本さんはそれとは違った視点を教えてくれました。

「何かしなきゃいけないというわけでもないんですよね。こういう場で何となくぼーっとしててもいい。常に何かに追われている日常の中で、ぼんやりできる時間が逆に子どもたちにはないから。ここに来てぼーっとして、暇でもいいんです。

そうすることで、何か普段感じることのできない自然に身を委ねる。鳥の囀りに耳を傾けたり、じっとして風を肌で感じたり、葉っぱが落ちる音を聞いたり。慌ただしくしてると気づかないような、何もしてないときにしか感じられないことだから、そういう時間もすごく大事だと思うんです」

冒険遊び場で大きなワクワクに全身を使ってあそぶのもよいけれど、小さくて微かな自然の動きを見つめる時間もいいよねと言える。いろいろなあそびや、さまざまな視点、それぞれの立場で一緒にいられる場所が、子どもの成長を支えているのだなと思いました。

取材協力

せりがや冒険遊び場

〒194-0014 東京都町田市高ヶ坂1-9
https://seribou.jimdofree.com

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残る記憶づくり─ホーニマン博物館|ロンドン https://craftweek.jp/column/70277 Wed, 10 Jan 2024 02:21:21 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=70277 ここでは、子どものまなびにまつわる実践や場づくりをされている人たちと、彼らのアイデアや方向性に焦点を当てます。子どもたちが生き生きと学び、伝統工芸の面白さや美しさ、重要性が伝わるにはどうしたらよいのか? コンサバターである筆者が、自身の分野を伝える際にもつ共通の課題を通して、“聞いてみたい” から得た視点を共有していきます。

ハンズオンベースの空間 © Joel Knight

ロンドン南東部、中心地から電車で1時間弱のフォレストヒルにあるホーニマン博物館。35万点以上のコレクションを収蔵するこの博物館は、120年の歴史を持ち世界各国の文化から不思議に満ちた自然まで、いろんな世界に足を踏み入れて探究するには格好の場所。大規模な動物剥製はくせいの収集でも有名で、水族館やロンドンを一望できる16エーカーの広大な庭園もあります。

今回紹介するこの博物館には、ほかではあまり見られない“ハンズオンベース(体験型学習基地)”という、ものに触れて探究するための専用の空間があります。コロナ前の平日は一般に開かれていましたが、現在は木曜日の午後のみ一般に公開されていて、他の曜日には学校や地域団体が訪れ、授業やプロジェクトに使用しています。

ホーニマン美術館の庭園 © Megan Taylor

部屋の四方をぐるりと囲むガラスケースには、化石や楽器、種や工業製品など世界中の多岐にわたる分野の資料が並べられ、天井からは民族の仮面や人形、動物の骨格標本などが吊るされます。入った瞬間、探索の入り口の多さに好奇心を刺激される場所です。

ハンズオンベース © Morio Sayuri

そんなハンズオンベースで、授業やプロジェクトの企画に関わっているルーシーさんとインディアさん。あらゆる世代と関わる学び創発のエキスパートです。彼らはハンドリング(ものを扱うこと)を通じて、個々人がものとのつながりを作ることを大切にしています。そんなお二人に、ものに触れながらまなぶワークショップについて、伺いました。

ルーシー・メイコック
© Horniman Museum and Gardens

ルーシー・メイコック(Lucy Maycock)さん

ホーニマン博物館のフォーマルラーニング・マネージャー。同館での勤務は7年半に及び、様々な業務を担当。資料を使った学びやコミュニティとの協同創作のプロジェクトに携わる。

インディア・パテル
© Horniman Museum and Gardens

インディア・パテル(India Patel)さん

 

ホーニマン博物館のフォーマルラーニング及びハンドリングコレクションのアシスタント。ものを扱うハンドリング・コレクションが、博物館で実際にどのように使われるかについて調査をしている。

ハンズオンベースで扱える資料はなんと3500点。棚にはその中から選ばれたものが並んでいますが、そこに一切キャプションはありません。「人がものと自分自身のつながりを作る」 という価値を大切にし、一方向の解釈を与えてしまう解説は意図的に避けているのだそうです。

ものと自らのつながりを築く経験は、実際にものを手に取りながらの体験学習を通してより深められますが、ルーシーさんはその本質を「proper memory making(残る記憶づくり)」と表現します。実際にものに触れる体験の重要性について、ご自身の原体験を教えてくださいました。

「私が今博物館で働いているのは、子供の頃に学校で古代エジプトの資料に触る機会があったからです。25年経った今でもよく覚えています。自分が本当に興味を持ったものに触れ、つながっていることは、本当に特別な経験でした」

実際に資料を手に取って学習するワークショップの様子 © Sophia Spring

ものを介したコミュニケーション

そんな経験をもつルーシーさんは、 「触りながらものと向き合うと、自分自身で情報を得ることができるので、扱っているものについて語ることができる」と言います。

「博物館や美術館に対して、敷居を高く感じている人は少なくありません。知識がないと展示されているものが威圧的に見えてしまい、何も言うことが見つからない。こんな想いは大人も子どもも同じです。ハンズオンベースは、博物館が「とてもまじめで、知識がなければ歓迎されない場所」から「好奇心をそそられ、興味を持つ場所」に変わるきっかけになると思っています。冷たいあたたかいなどの温度や、思ったより重い軽いなど、見るだけではわからなかったことが、わかるようになる。ものから直接に得た一次情報は、その対象物の持ち方や見方、気分や体験を変えていきます。それゆえに、何かを持つという体験は非常に強力なものです」とルーシーさん。

古代エジプトの船の模型 © Horniman Museum and Gardens
ハリセンボンの剥製 © Horniman Museum and Gardens

インディアさんは「色々なものをたくさん触ればよいわけではなく、一つのものに集中して時間をかけることが大事」と言います。

「ハンズオンベースにはたくさんのものがあり、すべてを引き出そうとすると圧倒されてしまいます。でも、ほんの数個の資料のなかでつながりを見つけたり、ただ一緒に座ってものを前に対話したりする時間は、本当に特別です」

私が訪れた際も、親子が床に座りものを一つひとつ取り出しては、これは何だろう、こういう風に使うのではないかと対話によって発見していく様子を見て、子どもの好奇心の流れが面白いと感じました。

ディスカバリーボックス

ものと人とのつながりと同じく、ものを介した人と人とのつながりもまた、大事にされています。その事例として、ディスカバリーボックスをご紹介します。 “人間とは何か” という根源的な問いを探求するワールドギャラリーが2018年に改変する際に開発されたこのボックスは、テーマに沿ってそれぞれの地域団体が各々選んだものをつめこんだ、いわばミニ博物館。

引越しの際に使用するようなサイズのプラスチックのボックスの中に、選ばれたものが何層かになって収納され、ふたには地域団体の説明や選んだテーマ、選択の理由や問いが書いてあります。

ディスカバリーボックス © Morio Sayuri

例えば、クリエイティブ・アートの力によって若者たちを結びつけ、偏見や不公正に声をあげる「リライト(Rewrite)」という団体は、”新しい惑星に到着した人々のためのサバイバル・キット” をつくりました。「持ち物や快適さをすべて手放して新しい土地で生活するとき、必要なのはどんなものだろう?」と考え、コンパスや種、時計、食べ物やものを持ち運ぶバックや器、そして娯楽用のヨーヨー などを入れたボックスです。 

「メンタル・ヘルスNHS」と「DACT(成人ろう者コミュニティー)」のグループは、ろう者のことを知ってもらい、理解を深めるためのボックスをつくりました。中には、蝶の標本(蝶の多くは音が聞こえず、触覚で振動を感じながら飛んでいるという理由)、表情の大きな喜劇役者の仮面(ろう者の意思疎通に表情やアイコンタクトは重要な意味をもつので)や、クジラの鼓膜(耳の構造を理解するため)をいれました。

このディスカバリーボックスは、授業やプロジェクトで使用する機会は少なく、ハンズオンベースへの来館者が自主的に使用するのが主ですが、授業の導入で緊張をときほぐす際にも使用されるそうです。

コミュニティや学校との連携

博物館は収集したものを展示するだけの場所ではなく、「その資料が関わるコミュニティと連携していく必要がある」とインディアさんは感じています。また、収蔵している資料を通しての若者の学びを、相互にとらえている彼女の姿勢も印象的でした。 

「一般的には博物館学や美術、人類学の学生が来ることが多いです。ロンドンにはたくさんの美術大学や専門学校がありますから。でも去年は工学部の学生も来ました。異例の依頼でしたが、実際やってみるととても楽しかったです。彼らと一緒に、3Dスキャンや学校、コレクションについて考えました。理系の学生たちと一緒に活動をしたことがなかったので、これは貴重な機会でした。コレクションのさまざまな使い方や、いろいろな研究分野での活用方法について考えることができたのは、大変面白かったです」 

また、イギリスでは学校に行く代わりに博物館で授業を受けることができます。Home educated childrenと言って、学校以外の場所で代わりに学べるシステムなのですが、その授業をホーニマン博物館でも実施しています。病気が理由で学校に行けなかったり、学校に行く十分なサポートが得られなかったり、また、親がさまざまな理由で学校を休ませる場合もあります。そのようなサポートとして博物館で授業を受ける子どもたちが、特にパンデミック後は増えているそうです。

元は“スクールチーム”だった部署の名称も、その変化を反映して現在のフォーマルラーニングチームとなったそうです。

じっくり考えて、何かを導き出す

触る・扱うという行為は学びを深くしますが、しかしその一方で破損のリスクを大きくします。壊れてしまったものはどうするのかもお聞きしました。

もちろん壊れることも想定していて、修理はコミュニティ・エンゲージメント・アシスタントが担当しているそう。しかし、修復や修理ができないもの、たとえば古代エジプトのものはコンサバターに、また剥製は剥製師にお願いしているそうです。

「ものに触れられること、それが使えることが第一義なので、授業で支障なく扱えるようにするための修理なのです。つまり、見栄えをよくするためというよりむしろ、ものがものとしてきちんと機能するためにケアしています」とおっしゃっていました。

修復や修理の方法や素材が、その目的に適っていることはとても重要。出来ることできないこと、必要不必要を考えて適切に対応できる環境を整えられているからこそ、ハンズオンベースが成り立っているのだと思いました。

ハンズオンスペースの資料 © Morio Sayuri

そして、面白いなと感じたのは、壊れるものは大体明らかに壊れやすくは見えないということ。逆に言うと、壊れやすく見えて実際に壊れやすいものは、比較的壊れないのだとか。なので、クッションの上に置いたり、注意深く渡したり、「これは気をつけて扱わなければならない」と対象物に注意を促すようなサインを出すと、子どもたちも細心の注意と敬意を払うそうです。  

ルーシーさんがセッションの際に気をつけていることは、先回りして教えてはいけない、ということ。ものの扱いの学びのポイントは、子どもたちが自ら何かを発見することです。その対象物を見て、じっくり考えて、何かを導き出す。そして、「その時間が上手くいっているのなら、それはみんなができること」なのだとルーシーさんは言います。そんな彼女がこの仕事をしていて一番ワクワクする瞬間を訊いてみました。

「私は8年間ここにいて、同じものについての子どもたちのいろいろなコメントを聞いてきましたが、ごくたまに、子どもが今まで思いもよらなかった新しいことを言う場面に遭遇します。それが新鮮な驚きだったり、本当に考えさせられたり、興味深かったりするんです。そういうときはいつもワクワクします。人によって物事を見る角度が違ったり、違った経験をしたりしています」

自分とものとのつながりをつくる

自分の視点での発見が出来る授業やワークショップを日々運営されているお二人に、伝統の文化や工芸を伝えるワークショップについても教えてもらいました。

北インドの職人たちとホーニマン博物館の会場をネット上で繋いで、制作ワークショップを行ったそうです。北インドで何世代にもわたって作られてきた伝統工芸である人形作りや、テキスタイルフラワーの職人の手元を画面に映し、博物館の会場では同時に同じことをやってみました。それはちょうどクッキング教室のようだったそうです。

このビデオは資料として、いずれは博物館の活動で使ったり、ウェブサイトに載せたりして、人々が作り方を見られるようにする予定だそう。そして、その一環として、どのように作られ、どのように組み立てられていくのか、さまざまな段階を示す工程の作品も購入したそうです。

インドの木彫り操り人形 © Horniman Museum and Gardens

また、Ticktockで伝統的なものづくりを発信している人たちのことも仰っていました。日本の伝統的な鍛金技法でつくられた茶釜の制作風景などの配信も、フォローしているのだとか。

ルーシーさんは、「このようなプロセスや作り方の動画を見ると心が落ち着き、リラックスします。忙しいペースの日常から少し立ち止まり、何かをつくることに時間を使ってみる。そうすると、人々は突然、それが自分の心身の健康にどれだけよい影響を及ぼすかに気づくのです。これはとても興味深いことです」と話してくれました。

日本の伝統工芸は用があるものが多く、したがって扱うものであるということ。子どもや大人が、いろんな方向から「ものと関わる体験」を得ていく中で、自分とものとのつながりをつくることが、心に根を下ろす記憶となるのだと、今回の取材を通して学びました。

取材協力

Horniman Museum & Gardens

100 London Road, Forest Hill, London SE23 3PQ
Tel 020 8699 1872
https://www.horniman.ac.uk

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あそぶ、つくる、であう。東京おもちゃ美術館 https://craftweek.jp/column/70248 Sun, 10 Dec 2023 03:23:57 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=70248
東京おもちゃ美術館エントランス ©東京おもちゃ美術館

美しいものを子どもたちに

日本では珍しい“市民立”のミュージアムである東京おもちゃ美術館。2007年に閉校した旧新宿区立四谷第四小学校の校舎を使用し、2008年にこの地に移転。小学校そのままの外観を残しています。筆者が美術館を訪れた日は、平日の午後。建物の入口でバギーを押しながらおしゃべりしているお母さんたちの横を通り過ぎ中に入ると、懐かしい雰囲気に包まれました。

東京おもちゃ美術館廊下 ©東京おもちゃ美術館

「人間が初めて触るアートはおもちゃ。だからこそ美しいものを子どもたちに伝えられる場が必要だ」との想いからスタートしたこの美術館は、1984年に初代の館長が東京・中野区に自費で開館しました。もともと美術教育の専門団体だったこともあり、教育に主眼を置いた活動をしてきましたが、現在は、地域ならではの自然と文化の魅力を伝える場として全国に姉妹おもちゃ美術館も広がり、全部で12館が各地に設立されています。

そんな東京おもちゃ美術館のNPO法人部長として設立当初より運営に関わる山田心さんと、工作指導や作品の管理を担当されているサブチーフディレクターの貝原亜理沙さんに、あそびとまなびについて伺いました。

山田 心 やまだしん

認定NPO法人芸術と遊び創造協会 法人部 部長
「東京おもちゃ美術館」の設立準備段階より運営に携わる。製薬企業と連携した難病児支援やNGOと連携したミャンマーの小学校の教育支援、全国の子ども食堂と連携したイメージ改革プロジェクトなど、様々な組織と協働プロジェクトを実施している。

貝原亜理沙 かいはらありさ

東京おもちゃ美術館 サブチーフディレクター、おもちゃコンサルタント
美術館での調査研究業務や絵画造形教室講師などを経て、2017年から認定NPO法人芸術と遊び創造協会に入職し「東京おもちゃ美術館」に所属。江戸からくり玩具から木工まで工作指導や、収蔵品100カ国・10万点の管理を担当している。

あそぶ、つくる、であう

おもちゃ美術館のコンセプトは、“あそぶ、つくる、であう”。そこで大事にしているのは、おもちゃを介した人と人とのコミュニケーションです。実際にものに触れ、遊び、会話をし、人と人とがつながる。おもちゃを文化財としてとらえ、多世代の人たちが交流できる場を創出する役割を担っています。

展示してあるおもちゃは約5000点。その8割は、実際に手に取って遊ぶことができるそう。見ているだけでは何のおもちゃなのか、どのように動くのかわかりませんが、使い方を教えてもらい実際に遊んでみることで、はじめてその楽しさが体感として理解できます。

また、身近な素材を使って自分でおもちゃがつくれることを体験してもらうための「おもちゃ工房」もあります。ここでは頻繁にワークショップが開催されていて、この日は “鳴き声遊び” という、紙コップとタコ糸を使ったシンプルな音が出るおもちゃを親子でつくっていました。

制作風景 ©東京おもちゃ美術館

職人を招いて、プロの道具で一緒に工作をすることもあります。お正月に毎年開催している恒例のワークショップでは、福島県の張子職人を招いて、12年連続で干支の張子の絵付けをしています。12年かけて全干支に参加するリピーターもいます。そうして何度も顔を合わせるうちに、職員も、一緒に活動している「おもちゃ学芸員」と呼ばれるボランティアスタッフも、そして参加者も、1年ぶりに子どもの成長を確認し近況を話す機会になり、それが楽しみだそう。 

「プロの職人さんの本格的な道具を使って張子に目を入れるような体験なんて、なかなかできないですよね。また保護者にとっては、何度も来ているうちに子どもの成長が垣間見えるというのも人気です」と貝原さん。

作品 ©東京おもちゃ美術館

こうしたリアルな喜びがまず参加者を惹きつけ、そこから1回きりではなくて何度も参加するなかで理解を深めていくことにつながります。

そして貝原さんはこう続けます。「初めての来館者に楽しんでもらうこと。常連となっている来館者にはさらなる楽しみを提供すること。どちらも大事で常に考え続けています。美術館の中におもちゃがただ置いてあるだけでは、それはおもちゃ美術館ではないのです。私たちが来館者とどう関わるか、アイデアやコミュニケーション能力が試されます」

ゲーム ©東京おもちゃ美術館 

そして、山田さんはボランティアや職人など、美術館に関わる人の視点からの継続の理由を教えてくれました。

「おもちゃ美術館は“生き甲斐を感じる場所”だと言ってくださる方が多いです。例えば、『自分には孫がいないけれど、ここに来るとたくさん孫ができたよう』とか『おもちゃの販売に行き詰まっていたが、おもちゃ美術館に来るとなにかしら常に新しいヒントがもらえる』とか。嬉しいことに、利用者が張り合いを感じ、行くのが楽しみな場所になっているのだと思います」運営する方も参加する方も、双方向にそこに関わる人たちが意味や意義を見出しているところに、人が継続して集まる理由があるのでしょう。

あそびの選択肢

おもちゃの遊び方は多種多様で、そこから得られる楽しみや学びもそれぞれ。そんな様々な生きる力になる遊びを、美術館は “心の栄養”と表現します。山田さんに伺いました。

「疲れている時は酸っぱいものが欲しくなりますし、ちょっと元気がない時は逆にステーキを食べようと思うように、その時に必要な栄養は人によって違います。時期によっても結構違いますよね。遊びも同じです。どんな遊びにも栄養価はあると思いますが、1番大事なのは遊びの選択肢があることです」

サッカーゲーム ©東京おもちゃ美術館 

おもちゃ美術館では、“おもちゃコンサルタント”というおもちゃの専門家を育成しています。 半年から1年かけて子どもの成長と遊びについて学び、おもちゃの文化や社会的意義など体系的に学べる講座を30年つづけていて、現在は全国に6000人程の卒業生がいるのだとか。

「その人がどういう遊びをしているのかは傍目にはわかりにくく、特に子どもの場合は、身近なものの中でしか遊びの選択肢がない。その子に今必要な遊びのアドバイスをしてくれるような専門家が必要だと、私たちは思っています」

職人との繋がり。遊んでいるうちになんとなく染み込んでいくようなもの

そんな遊びの選択肢を増やすべく、館内には様々なおもちゃが紹介されています。教室の間取りをそのまま使用して、部屋ごとにテーマを設けています。なかでも印象的だったのが“匠の小屋”。職人の技をふんだんに取り入れたその部屋には、そろばんのたまが入った大箱、自分で組んで模様をつくる組子細工のテーブル、本物のお茶会が出来る小さな茶室などがあります。

赤い部屋 ©東京おもちゃ美術館 
組子 ©東京おもちゃ美術館 

そろばんの大箱にはなんと10万個ものそろばんの珠が入っているそうで、産地として有名な兵庫県小野市のそろばん組合が作りました。実際にそろばんの製作過程で、箱に入った大量の珠を軸に通す作業をしているのですが、興味深いのは製造作業を遊びに変えてしまったところ。

プロの道具を使えることが参加者の興味を惹いたように、職人のリアルに触れられることにはとても魅力があります。法被はっぴを着た組合長がそろばん小屋の前に立ち、関西弁で子供たちにそろばん作りを教えるという、そんな場面がよくあるそうです。

おもちゃ美術館では、日本の伝統技法でつくられた木のおもちゃや、地元の木でつくられた建物や家具を通して、森林文化の継承と木育推進に力をいれています。

宮大工のコーナーは、アトリエやまとという工房を埼玉県に構えているご夫婦が制作しました。そこで遊べるおもちゃは、組木など宮大工の手法や伝統的な日本の文様が使われていますが、そこには「子供の頃に見た模様、楽しく遊んだあのおもちゃは日本の伝統だったのだと、大人になってふっと思い出してくれたら」という作家の想いがこめられていると、貝原さんが教えてくれました。

アトリエ倭さんの工房 ©アトリエ倭 

一方的に日本の伝統を教えるのではなく “あそんでいるうちになんとなく染み込んでいくようなもの” を大事にする。そこにあるのは、そっと差し出すような伝え方です。もしかすると、そうしたものが一番子どもの心に根差すのかもしれません。

グッド・トイ賞を設けて作家にスポットライトを

日本の伝統をおもちゃに込める職人や作家たちには、その仕事を評価される機会が少ないという現状があります。おもちゃ美術館ではそれに対するアクションとして、グッド・トイ賞という授賞制度をつくり、毎年40点ほどの作品を選出しているそうです。アトリエ倭もこの賞を受賞しました。

グッド・トイ ©東京おもちゃ美術館

「作り手は自分の作品がおもちゃ美術館に置いてあると言えますし、来館者にとっては作った人に会えるという貴重な体験が得られる」と山田さんは言います。「こういった人たちがたくさんいる場所で過ごすことが、子どもたちにとってはすごくいいこと。今の日本の社会は閉塞感が漂っているとか、大人になりたくない、仕事したくないといった感覚を持つ子供が多いとか言われていますが、つまり楽しそうにしている大人が少ないってことですよね。美術館の人たちって楽しい、私も将来あんなふうになりたいと思えるような大人に出会えることは、子どもたちにとって何よりもいい経験になるのではないかと思います」

自分たちだけで考えない。継続すること

人と人をつなぎ合わせ、教育や研修プログラムなど様々な企画と運営をされている山田さんですが、一番大事にしているのは “自分たちだけで考えない“ということだと言います。スタッフだけで考えず多様な専門家や、草の根的活動をしている人、いろいろな人の考えを混ぜ合わせてつくりあげていくことを心がけているそうです。

赤い部屋 ©東京おもちゃ美術館 

また、来館者と常に接している貝原さんは、コロナ禍で身に染みて実感したことがあったそう。パンデミック期間中はおもちゃ美術館も何度かの臨時休館を余儀なくされたのだとか。

「(休館中に)誰とも喋らずひとりで育児していたお母さんが、やっと館が開いた時に赤ちゃんの部屋で泣き始めてしまったことがあったり。臨時休館の期間を経て、ここには人とのコミュニケーションを求めて来てくれる人がたくさんいるのだと実感しました。この美術館が、おもちゃ学芸員にとっても、来館者にとっても居場所として機能している。私たちはそれを継続させていかなければいけないということを、最近とても強く思っています」

人びとが世代を超えて交流する場、来館者と美術館スタッフが交わる場。

そんな「あそびとまなび」を常に考え更新するおもちゃ美術館の中核にあるのは、おもちゃを介して生まれる“コミュニケーション” 。関わる人すべての成長と楽しみに価値を置く姿勢が、「いつでも行きたい」「いつまでも行きたい」場所でありつづける秘訣かもしれないと思いました。 

取材協力

東京おもちゃ美術館
〒160-0004 新宿区四谷4-20 四谷ひろば内
公式サイト 東京おもちゃ美術館 (art-play.or.jp)

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Young V&Aが学びにおいて大切にしていること|ロンドン https://craftweek.jp/column/69793 Fri, 10 Nov 2023 02:38:49 +0000 https://craftweek.jp/?post_type=column&p=69793 ここでは、子どものまなびにまつわる実践や場づくりをされている人たちと、彼らのアイデアや方向性に焦点を当てます。子どもたちが生き生きと学び、伝統工芸の面白さや美しさ、重要性が伝わるにはどうしたらよいのか? コンサバター(保存修復師)である筆者が、自身の分野を伝える際にもつ共通の課題を通して、「聞いてみたい」 から得た視点を共有していきます。

Young V&A 館内のタウンスクエアとらせん階段
© Luke Hayes courtesy of Victoria and Albert Museum, London

世界中の美術工芸品を数多く所蔵するヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)。その分館であったV&A子ども博物館 (V&A Museum of Childhood)が、改装に際し「Young V&A」と改名し、今年の7月1日にオープンしました。目指すのは、子どもや若者、家族が想像し、遊び、デザインできる博物館。インスピレーションに満ちた空間が、創造性を刺激します。

そんな子どもや若者のための博物館で、ワクワクするプログラムやワークショップを企画運営するのがフォーマル・ラーニングチーム。そこでシニアプロデューサーとして2017年から2023年までご活躍されていたカースティ・サリヴァン(Kirsty Sullivan)さんに、学びを生き生きとしたものにするために大切な要素を伺いました。*

*取材後に職を移され、現在はクエンティン・ブレイク・イラストレーションセンターで、教育普及部長をされています。

カースティ・サリヴァン(Kirsty Sullivan)
[元Young V&A フォーマル・ラーニング シニアマネージャー、
現クエンティン・ブレイク イラストレーションセンター]

関わる人同士が相互に学べるワークショップ

Young V&A デザイン・ギャラリー「デザイン・フォー・チェンジ」
© Luke Hayes courtesy of Victoria and Albert Museum, London

7年間にわたる計画と準備を経て、今年の夏ロンドンのイーストエンド、ベスナル・グリーンに再開したYoung V&Aですが、その前身であるV&A子ども博物館の来館者の多くは何度も足を運ぶリピーターです。同館は改装のために3年間休館していましたが、築いてきた地元のコミュニティとのつながりを絶やさないために、「彼らが新しい博物館に期待していることを、継続的にコミュニケーションを図るよう 心がけてきた 」と、カースティさんは言います。


昔の幼児服を見せて解説するアシスタント・キュレーター(写真:Mishko Papic, V&A)
© Victoria and Albert Museum

その一つが“Design can make things last for longer” (デザインはものを長持ちさせる)。11歳から22歳を対象に、博物館のコレクションと自分とのつながりをつくる企画です。 この「デザインはものを長持ちさせる」というタイトルは、Young V&Aの一つの展示エリアの主題にもなっています。
このプログラムが目指したのは “タンジブル(手ざわり感のある)” な体験。 地元の青少年センターからの参加者は V&Aの収蔵庫を訪ねて、展示前の作品を見ながらキュレーターの説明を聞いたり、デザイナーとものをつくったり、使われた材料について学んだりする4日間を過ごし、その中で、持続可能性やデザインについて話し合いました

こうした企画の中で、参加者だけでなく博物館の職員も新しいアイデアを得るという、双方向の学びの循環が生まれました。そしてこの双方向の学びの体験が、新しい学校向けの学習プログラムに発展したのです。

自ら選択した活動で発信した声が、大切にされる場

上述のConnect (コネクト=つなぐ) は、Young V&Aの大事なコンセプトのひとつですが、もうひとつにはCo-Design(コ・デザイン=共同デザイン)を掲げています。V&Aの説明によると、共同デザインとはものやシステムを開発、デザインする際に、使う側の意見を単に参考にするだけではなく、開発プロセスにおいて、より創造的なかたちで積極的に取りいれること。

新しいギャラリーでは、地域の子どもたちや若者たちが地元のメーカーやデザイナーと共同で制作やデザインをした作品が展示されています。そこでは ”共に” というプロセスに明確な価値を置いていることに、とても力強さを感じました。カースティさんは次のように言っています。

「若者たちの創造的なビジョンやスキルが、現役のデザイナーやメーカーの作品と一緒に展示され、彼らの声が表に出ることが重要だと感じています。地元の小学校と共同デザインした新しい階段や、持続可能なファッションを探究する共同制作のキルト、地元の中高生がつくったジン(註:雑誌のこと)など、博物館の発展には彼らの存在がとても重要です。若者の声が大切にされていることを知れば、若者たちは自分のアイデアや創作物を、より自信を持って発信し共有するはずです」

2021年冬、建築家エミリー・クエニーとの創作活動プロジェクトに参加する子どもたち
© Victoria and Albert Museum

新しい ミュージアムではさらに多様な体験学習の機会が増えます。子どもたちがつくり、想像し、空想できるような遊び場の模索から生まれたイマジネーション・プレイグラウンド (Imagination Playground)、建築や空間を身近に感じられるようなおもちゃを考案する建築家のエミリー・クエニーさんが開発したハッピースクエア (Happy Square)。これらは体験するなかで学ぶ事例としてカースティさんが挙げてくれましたが、そこで大事なこととして強調されたのは、アイデアや材料は提供しても、体験の結果として生まれるものや学びを事前にこちらで規定しないこと。カースティさんは「この自由さは、言語やスキルの壁を越えて自分自身の表現で参加できるようにするために本当に重要なことです 」と言います。

Young V&A 「組み立てて、遊ぶギャラリー」(Build It, Play Gallery )
© Luke Hayes courtesy of Victoria and Albert Museum, London

参加者が自分自身の表現で参加できるようにするために、結果として得られる学びを規定しない。逆に言うと、押し付けてしまっては、その子自身の視点の学びが得られないということなのかもしれません。 また、カースティさんはこうも言います。「子どもたちはもちろん意思や意見を持っていて、選ぶ力をもって自ら学びを選択する」と。

「とても小さな子どもの参加者は言葉を発しない場合が多いのですが、手触りを確かめたり、ものを掴んで遊んだり操作したり、周囲と関わったりしながら、何に興味があるのかを伝えることができます。私たちは特別な教育的支援が必要な子どもや障害を持つ子どもたちとも関わりますが、彼らの多くは同じように自分の意見を伝えているのです。
3~5歳の子どもたちは、自分が好きなこと、嫌いなこと、やりたいことについてはっきりとした意見を持っています。多くは、個人ではなく家族という単位の一員として共同デザインや共同の創造活動に関わります。同じように学校の中でも自分の関心の高いものに関わり、選択した活動を通して、自らの学習を方向づけています」

© Victoria and Albert Museum

プログラム のなかでは触覚を使った学びがより効果があるとのことで、カースティさんが監修されているフォーマルラーニング(主に学校などの授業の一環としての学び)の活動では、学習するための方法として、ものを扱います。重さを感じたり、硬さを試したり、温度を確かめたり。どのように動くのか、3Dでどう見えるのか、どんな感触なのかを探究するのです。

「この新しい経験が自分の過去の経験とつながりがあるかなど、ものを扱うということは、学びの切り口が増えること」とカースティ さん。
「ガラスケースの中のものを見るだけでは、これらの感触はわからない。使用を想定してつくったものなのに、それをただ ”見る”だけの状態は、人々のゆたかな体験を奪ってしまうことにもなり得ます」

とはいえ コレクションを直接扱うことは難しいので、授業のためにレプリカを用意したり、扱う「もの」が工業製品などの場合には同じか類似した製品を用いたりしました。

ワークショップによる経験を重ねて、
周囲にポジティブな影響を与える存在になる

手でつくられたものに触れ、それを扱うことで、そのものへの関心や学びが深まっていくのは、多くの方が体験を通して共感されると思います。手づくりにしても工業製品にしても、現代の私たちにとって、ものがつくられる過程は見えづらくなっています。そこで、触れたり扱ったりすることでものを通じて学ぶ経験と並行して、Young V&Aでは現在、ものづくりや製造技術に関する映像シリーズをまとめているところだそうです。またデザインギャラリーでは、ものづくりの実演を行って職人やメーカーの作業を見せたり、完成品ではなくプロセスに触れられる「素材ライブラリー」が出来るそう。素材やつくるプロセスに興味がある私としては、このライブラリーはとても気になります。


クギを持って子どもたちに語りかけるデザイナーのサム・ヘクト
© Victoria and Albert Museum, London

もうひとつ、 ものづくりの話から各国の伝統工芸の先細りの文脈でカースティさんが教えてくれたのは「ここ数年で伝統工芸への関心が非常に高まっている」ということです。これは彼女自身が若い人たちと一緒に仕事をする中でも実感しているそうで、特にバングラデシュやアフリカ諸国のコミュニティでは、両親や祖父母から伝統工芸の技術を学んでいる人が多いのだそうです。そして、彼らはTikTokを使って、学んだ技術を世界に発信し共有しています。

共有するということもそうですが、取材の中で何度もでてきた「共に」や「つながり」というキーワード。そのためにも一人ひとりが自分の声や表現を発見し、互いにそれぞれを尊重する。ワークショップやプログラムにおいてYoung V&Aが大切にしているものは、一人ひとりが身近な人や社会にポジティブな影響を与えられる存在となるための、経験の積み重ねの機会を創出することなのかと感じました。
次回Young V&Aを実際に訪れる機会を楽しみにしたいと思います。


オープンしたばかりのYoung V&Aですが、再スタートの第一弾の特別展示は、日本文化。「日本:神話からマンガへ(Japan: Myths to Manga)」というテーマです。日本の文化や技術、デザインに日本の景観や民俗学の要素がどのように影響を与え、変化してきたかを巡る展示です。

Young V&A よりお知らせ

Young V&Aにて、「日本:神話からマンガへ(Japan: Myths to Manga)」展が2023年10月より開催されています。

空から海へ、そして森から街へ。この展覧会では、胸躍る素晴らしい日本の歴史へ誘いながら、日本の風景や神話が、独自の文化やデザインにどのような影響を与えてきたかを探ります。感覚を刺激するインタラクティブな展示やアクティビティに加え、誰もが知るアニメーション制作会社スタジオジブリの映画『となりのトトロ』(1988年)や『崖の上のポニョ』(2008年)、マンガの絵をモチーフにしたコム・デ・ギャルソンのコート、舘鼻則孝の「ヒールのない靴」、そしてたくさんのポケモンも登場します。また、GoogleがSTUDIO4℃と制作したロールプレイングゲーム「Doodle チャンピオン アイランド ゲーム」(2021年)や、宮崎啓太による革新的な彫刻、広島市の平和記念公園で追悼のシンボルとされる千羽鶴の動くインスタレーションも展示されています。

この展覧会は、東芝の他、ロンドン・コミュニティ財団のドナー・アドバイスド・ファンド(DAF)であるCockayne – Grants for the Artsからの支援をいただいています。

公式サイト

Young V&A

Japan: Myths to Manga

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