Interview

室瀬和美(漆芸家、重要無形文化財保持者)

漆芸家で人間国宝の室瀬和美さんは、1回目の「絶滅危惧の素材と道具」のシンポジウムに登壇して以来、このプロジェクトに深く関わっています。また、21世紀鷹峯フォーラムの会期中には、各所で作品展示が行われ、門下の作家たちも数多く参加しています。
つねに漆への熱い想いを説き、美しい作品で多くの人々を魅了する室瀬さんに、日本の工芸の魅力について、お話を伺いました。

murose_01日本の工芸の魅力とは、どのようなものだと思われますか。

まず筆頭に挙げられるのは、工芸は材料として自然の素材を使う点だと思います。木も布も紙も金属も、もちろん私が使う漆でも、自然から頂いたものを材料に、私たちの感性と技術を通して作品につなげる。それが日本の工芸の最大の財産なのではないでしょうか。

そして大切に使い、次の世代にまで伝える。そういうエコロジカルな思考のもと、長いスパンで循環させる。時代、また生活の変化によって、表現も変わってきていますが、自然から素材を得て、循環させるという価値観は、ずっと変わらない。これは将来においても、私は変わらないと思っています。

日本の工芸がきちんと後世に伝わるかぎり、人は自然ともずっとつながっていく。逆にいえば、日本の工芸が一番伝えたい、守りたい、表現したい点が、自然の大切さだということです。ですから素材の特性をいかに生かしていくかに、私たちの感性、技術が問われています。

工芸と表現は、どんな関係にあるのでしょう。

20世紀は、ある意味「自己表現の世紀」だったといえるでしょう。ものづくりは多かれ少なかれ、自己の感性の表現なのですが、その表現が20世紀になると加速して、自己表現自体がアートだというふうになってきた。そこでは他人のことをあまり考える余地はありませんでした。

ところが工芸というのは、考えたことを相手に伝え、喜んでもらえることが大事。工芸作品は、つくり手とつかい手がちゃんとつながるためのコミュニケーションツールです。このことは、21世紀の美として、もっとも重要なことだと感じます。

自己主張と自己主張がぶつかれば、相手を否定しなければならない。しかし、日本の工芸の根底に流れているのは、先人が積み上げてきた表現を否定しない。肯定した上で、新しい表現を構築する。決して先人と同じことはやらない。その工芸制作の姿勢は、21世紀の生き方の指針となるものだと思うからです。

工芸には大きな可能性を感じますね。

このことは、日本のみならず、世界の人に伝えたいですね。決して相手に迎合するのではなく、自分をきちんと伝えて、でも相手と一緒に幸せにならなければ、表現に意味がない。どんなに自己の内面性を表現しているといっても、相手の気分が悪くなってしまったら、工芸は成りたたない。自分のつくったもの、表現によって、相手が心地よくなる。これが工芸の美の原点だと思います。

相手がいて、初めて完成するものなのですね。

つくり手だけでは完成しない。つくり手とつかい手が一体となり、築き上げて初めて完成する。それが、私たちの仕事だと思います。その時代、その時代に、つくり手の感性とつかい手の心が、つねに成長していくのが、工芸なんです。

その価値観や感性が、日本中、そして世界中に広がっていくことが、私が鷹峯フォーラムに期待することです。私もできるだけのことをお手伝いしたいと思っています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2016年12月13日(火)13時から、六本木ヒルズ・ハリウッドプラザ ハリウッドビューティ専門学校・7階教室にて、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」成果報告会が行われます。
20組のユニークな活動を行っている方々の対話式ブースの出展のほか、16時からは出展者ライトニングトーク・ミニシンポジウムが開かれます。
2017年1月23日(月)10時30分から、国立新美術館にて、絶滅危惧の素材と道具「いま起こっていること 」ミニシンポジウム┼ワークショップが行われます。
絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」@ 六本木ヒルズ

2016年12月14日(水)~2017年1月17日(火)まで、銀座の中長小西にて、「頂点を極めたお椀」室瀬和美 ┼ 目白漆學舎の展覧会が開かれます(ただし12月25日〜1月9日は休廊)。
頂点を極めたお椀 室瀬和美+目白漆學舎 @ 中長小西

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

青木芳昭(京都造形芸術大学芸術学部美術工芸学科教授)

「絶滅危惧の素材と道具」プロジェクトでは、絶滅しつつある工芸の素材や道具の問題に向き合っています。今年、2回目となるテーマは「NEXT100年」。課題解決に向けて努力する「ひと」、優れた取り組みを推進する「機関」、次世代に伝えたい「ほんもの」素材を紹介します。
工芸の伝統的な素材の研究を重ねてこられた青木先生は、このプロジェクトに深く関わっています。絶滅寸前の素材をめぐる状況や動きについて、お話を伺いました。

aoki_01昨年、1回目の「絶滅危惧の素材と道具」のプロジェクトが終わってから、何か動きはございましたか。

京都・丹波の猟師さんに、肉を取り除いた後の鹿革を提供してもらい、その毛をつかって筆や刷毛をつくり出す方向性を導き、またその革から、日本画用と絵画の保存修復につかうことができる膠をつくり出しました。予想以上に質のいい膠ができました。

今年の1月からは、その膠をつかい墨をつくって寝かせており、1年後にそれらを使用してワークショップをする計画を立てています。

革を煮れば膠らしきものはできるけれども、産業として成り立たせるには、それを取り巻く人々の協力が不可欠です。膠の素材の提供者や、それを扱う職人さんたちと一緒にプロジェクトを進めることが大切だと感じました。

2010年に日本製の膠は絶滅してしまったそうですね。

膠の代替品として現行の合成素材を使用することは現段階では難しいことです。それを復刻しない限り、日本の伝統的な技術は進まない状況にあります。しかし、なくなったにもかかわらず、どの企業も手を出さない。なぜかといえば、採算がとれないからです。

いま日本には、鹿や猪などの害獣が増えています。たとえばそれらの害獣について、肉は動物園に餌として寄付し、革は膠に、毛は筆や刷毛に……、という循環を何とか創出したいと思っています。

今年のテーマは「色」であるとお聞きしています。

日本では縄文時代以来、「赤」という色を大切にしてきました。赤という色を表現する顔料は「朱」であり、水銀朱をつくるには水銀と硫黄を必要とします(天然朱である「辰砂」と区別されますが、一般的には朱といえば「水銀朱」〈本朱ともいう〉を意味します)。ところが2018年にその原料となる水銀の国際間取引が停止されます。なおかつ今年に入って、全国に2社しかない水銀朱のメーカーが1社に減ってしまった。朱に関して、いよいよ絶滅まで秒読み体制です。

これまで朱を使用した数々の文化財の修復をどうするのか。日本画、漆工芸の行く先は? いろいろな分野にこの問題は派生していきます。2015年は文化庁に、「美術工芸保存修復向けの朱は残して欲しい」という嘆願書を提出しました。結果としては、現在「朱」は除外されています。しかし、今後の課題として、水銀朱の質の向上があります。質の良い天然硫黄が使用されていないのが原因といわれています。

100年後の工芸のために、私たちはどのような取り組みを進めたらよいのでしょう。

私は制作のかたわら30年以上にわたり、顔料、膠などの古い美術工芸の素材をコレクションしてきました。ニッチなジャンルでして、博物館や大学の研究室にも残っておらず、そのコレクションがなければ今回の膠の復刻や水銀朱の提案は不可能でした。

また、これまで日本で優れた「朱」の顔料をつくってきた大阪の方が、今年になって廃業されたのですが、その道具、材料は残っているはず。おそらくレシピも存在しているはずです。イエローリストをとりまとめ、ひとつひとつのアイテムの資料を整理、復刻できる状態にし、次世代の財産として残す必要があります。私たちはいま、それができるギリギリの地点に立っているのです。

正直いって、知らないことばかりでした。

今後、本物の朱や筆や膠の価値は、あまり理解されないまま、合成樹脂や塗料、ナイロンの筆や刷毛に置き換えられていくでしょう。確かにそれらがなくても、人間は生きていけるかもしれません。しかし、後でそれが豊かなものだと気づいても、時すでに遅し……、もう二度と復刻することはできません。

「残すべきだ」という人は多いけど、「残すべき」という意識では残らない。「残したい」という情熱だけしか、頼りにはなりません。より多くのみなさんと「残したい」という気持ちを共有していきたいと思っています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2016年12月13日(火)13時から、六本木ヒルズ・ハリウッドプラザ ハリウッドビューティ専門学校・7階教室にて、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」成果報告が行われます。
20組のユニークな活動を行っている方々の対話式ブースの出展のほか、16時からは出展者ライトニングトーク・ミニシンポジウムが開かれます。
2017年1月23日(月)10時30分から、国立新美術館にて、絶滅危惧の素材と道具「いま起こっていること 」ミニシンポジウム┼ワークショップが行われます。
絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」@ 六本木ヒルズ

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

中台澄之(株式会社ナカダイ 常務取締役)

「絶滅危惧の素材と道具」プロジェクトでは、絶滅しつつある工芸の素材や道具の問題に向き合っています。今年、2回目となるテーマは「NEXT100年」。課題解決に向けて努力する「ひと」、優れた取り組みを推進する「機関」、次世代に伝えたい「ほんもの」素材を紹介します。
中台さんは、廃棄物の処理、分類解体から再利用までの事業を仕事としており、このプロジェクトに、新たな発想や提案を投げかけています。人とモノとの対峙の仕方について、深い話が飛び出しました。

中台さんは「100年後の工芸のために」必要なことは「思考の転換」であると、つねづねおっしゃっていますね。

「工芸の技術が100年後に残るか」という課題は、「現代の技術が100年後に残るか」というのと、実は同じことだと思っています。

たとえば、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでも、イベントのために、モノをつくって形にして、終わったら廃棄する。捨てたモノを次の段階でどう活かせるのかという問題は、そもそも考えない。やることが目的で、それ以降のことは知らないというのが、いまや普通のことになっています。

「使い捨ての時代」といわれて幾久しいですね。

nakadai_01しかし現代でも、つぎにつなぐことを前提にモノつくることは可能で、そのことに私たちは知恵をもっとつかうべきだと思っています。それは普段のビジネスでも工芸でも同じことで、工芸という言葉を「資源」「環境」「技術」に置き換えることもできますね。「100年後の資源」「100年後の環境」「100年後の技術」……。問題は同根です。

「100年後に○○を残すならどこから?」という問いに対しては、お互いが気持ちよく、ちゃんとつぎのつかい手のことを考えているかどうか。もしくは他人の生活が豊かになることを想定して動いているかどうか。この一点だと思います。そういう思考をつくってあげることが、私は大事だと思う。

具体的にはどのような取り組みを考えていらっしゃるのでしょうか。

自分の会社には「モノ:ファクトリー」を称して廃棄物を解体する過程を見学したり、分別したパーツを素材として展示販売する「マテリアルライブラリー」を併設した施設があります。そこでは使い手の想像力が刺激され、モノに対する意識が大きく変わるようです。

それと同じように、工芸を含めた技術やそこに宿る思想などが一同に会する博物館のようなもの、技術だけでなく、そのものがどんな気持ちでつくられたものなのか、時代の背景も含めて感じられる場や機会をつくっていきたいと思っています。

どのように、モノに対する意識が変わるのでしょう。

子どもの教育も同じですが、「エコロジーについてもっと考えましょう」といったところで、ピンとこない。なぜ、そのようなモノが生まれたのか、廃(すた)れて廃棄されるに至ったのか。モノの流れと社会の仕組みを、ちゃんと教えてあげると、「エコロジーのためにやらないといけない」という標語めいたことではなくて、もっと身近な場面で、モノとの対峙の仕方が変わってくると思います。

工芸品も、「使い捨て社会」の対象である大量生産品でも、モノに宿っている技術は一緒です。そして、暮らしをより便利にしたい、人の生活を豊かにしたいという、つくり手の思いは同じはずです。

個人個人のモノとの対峙の仕方が問題だということですね。

いまはウェブサイトで注文すれば、ダンボールに包まれた商品が玄関に届くから、見えにくいけれども、工芸品でも工業製品でも、どんな苦労を重ねてつくられたのか、製造方法はどんなものか、つくり手の気持ち……。モノに宿った人の知恵とぬくもりに、つねに想像力を働かせてみる。そんな価値観を誰もがもつようになれば、工芸をとりまく状況も大きく変わってくると思うのです。

2016年12月13日(火)13時から、六本木ヒルズ・ハリウッドプラザ ハリウッドビューティ専門学校・7階教室にて、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」成果報告が行われます。
20組のユニークな活動を行っている方々の対話式ブースの出展のほか、16時からは出展者ライトニングトーク・ミニシンポジウムが開かれます。
2017年1月23日(月)10時30分から、国立新美術館にて、絶滅危惧の素材と道具「いま起こっていること 」ミニシンポジウム┼ワークショップが行われます。
絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」@ 六本木ヒルズ

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

中里文彦(株式会社中里 代表取締役社長)

「絶滅危惧の素材と道具」プロジェクトでは、絶滅しつつある工芸の素材や道具の問題に向き合っています。今年、2回目となるテーマは「NEXT100年」。課題解決に向けて努力する「ひと」、優れた取り組みを推進する「機関」、次世代に伝えたい「ほんもの」素材を紹介します。
中里さんは、伝統工芸の盛んな京都にて、繊細な技術を支える筆や刷毛の製造・卸売・販売を担っています。人材や素材が不足するなか、筆や刷毛づくりの新しいサイクルを考える、その取り組みについてお聞きしました。

昨年、1回目の「絶滅危惧の素材と道具」のプロジェクトが終わってから、何か動きはございましたか。

「筆のよい材料がどんどん減っている」というネガティブな噂ばかりが入ってくる状態で、実際に、自分の眼で見ているかといえば、そうではない。足元が見えていない状況は、よくないと思い、今年の夏、筆や刷毛の職人たちと一緒に、中国の現場に出かけました。

nakazato_01現場はどのような状況だったのでしょう。

具体的には、イタチの尻尾と、山羊毛の2つの現場に足を運びました。まずイタチについては残念ながら、気候の変化と、衣料としての毛皮の需要が低下していることが原因で、採れる量、とりわけ大きなサイズのものが減っているのが現状でした。

山羊の毛に関しては、食肉としての需要が高いことから、筆や刷毛に使う分量であれば、量についてはまったく問題がないが、質は年々悪くなる。また、中国でも高齢化が進み、職人不足が深刻で、いままでのように、よいものと悪いものの選別、さらによいなかでも上等なものを見分ける作業が、非常に難しくなっている現状が、如実に分かってきました。

そのような状況下、どのような指針で道具を提案していこうと思われていますか。

メーカーがモノを開発し、「これがいい」と宣伝するような時代は終わったというのが正直なところです。使い手が何を求めて、それに対して、メーカーがどう答えられるかが、これからの課題です。もともと筆は、使い手が望む形を、職人がつくってきた伝統があり、それに立ち戻るのが正しい形かもしれない、と最近よく思います。

国内の問題点について、お聞かせください。

筆づくりは、素材がなければ成り立ちません。毛皮の業界が下火になれば、原毛も手に入らなくなる。素材が生まれる現場から、すべてが一体化して循環しないと、筆づくりも立ち行かなくなる。自分たちだけの問題ではないのです。

日本には筆をつくる会社は何十社かあるけれど、職人が高齢化しており、今後、国内でつくり続けられるかどうかが、大きな問題になっています。新しい人を入れたいけれど、つくる量が増えたところで、買い手も増えるのか……、未来も予想しづらい。

需要のあるところにきめ細かい供給を行い、新しい職人を育てられる循環をつくるのが、目下の目標です。

21世紀鷹峯フォーラムに期待することは、どのようなことでしょうか。

ふだん、接点のない者同士が、上手く接点をもつことにより、「これは無理だ」と思い込んでいたことができるようになる。そういうネットワークが育っていくことが、一番の魅力だと思っています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2016年12月13日(火)13時から、六本木ヒルズ・ハリウッドプラザ ハリウッドビューティ専門学校・7階教室にて、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」成果報告会が行われます。
20組のユニークな活動を行っている方々の対話式ブースの出展のほか、16時からは出展者ライトニングトーク・ミニシンポジウムが開かれます。
絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」@ 六本木ヒルズ

2017年1月23日(月)10時30分から、国立新美術館にて、絶滅危惧の素材と道具「いま起こっていること 」ミニシンポジウム┼ワークショップが行われます。

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

横山勝樹(女子美術大学 学長)

女子美術大学は、2016年の21世紀鷹峯フォーラムの開催において、全面的なサポートを行い、東京実行委員会での中核的な役割を担っています。
同時に「創る、伝える、繋がる」女子美術大学デザイン・工芸学科 工芸専攻教員作品展はじめ、多くの展覧会やイベントを開催。「つくり手」と「つかい手」を積極的につなぐ場を提供しています。
学長である横山勝樹先生に、お話を伺いました。

工芸の魅力とは、どのようなものだと思われますか。

工芸の魅力は「手でつくる」ということに尽きると思います。「つくり手」の手でつくったものを、「つかい手」の手でもつ。そこに手の温かみを感じる。そのつながりを大切にしたいと思います。

yokoyama_02いまの工芸の課題について、どのようにお考えでしょうか。

よい素材をつかい、手間と時間をかけてつくられたものは、どうしても価格が高くなります。特に若い人には、それが「高いもの」であるという意識が植えつけられています。

何に対して「高い」という判断が生まれるのか。生活のなかで使われるものは、長く使い続けられることが大切です。一代にとどまらず、二代、三代と引き継いでゆける工芸品がたくさんある。そういった価値観が世の中にあることに、まず気づくことが大切だと思います。

若い世代の意識の変化が、工芸の普及ともつながりそうですね。

現代のタイムスパンで見れば、「ワンシーズン」という刻み方がありますね。その短い賞味期限に対して、自分が一生つかう、あるいは子や孫の世代まで引き継げるものがある。その豊かな時間の流れは、お金には換えられないものです。

私も実際、祖父の代から引き継いできた文机を、息子にも使わせています。「100年後の工芸のために」というテーマから考えると、世代と世代がつながっていかなければ、100年という時間を紡ぐことはできないでしょう。

21世紀鷹峯フォーラムに期待することは、どのようなことですか。

女子美術大学という教育機関として大切に思っていることは、いまの学生は、仮に工芸を専攻していても、伝統工芸とつながっているという意識、時間的な連続性が希薄です。

未来につながるためには、いまの美術があり、それと同時に、自分自身が伝統ともつながっていることを意識してほしい。長い時間のなかで未来について考えるきっかけを、この21世紀鷹峯フォーラムの場が与えてくれることを願っています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2016年11月10日(木)~13日(日)、虎ノ門ヒルズ アトリウムにて、A hundred threadsの展覧会が開かれます。
A hundred threads

2016年11月19日(土)、女子美術大学(杉並キャンパス)にて、伝統工芸 こどもワークショップが開かれます。
伝統工芸 こどもワークショップ

2016年12月7日(水)~12月21日(水)、女子美術大学アートミュージアム(相模原キャンパス)にて、創る、伝える、繫がる 女子美術大学デザイン・工芸学科工芸専攻教員作品展が開かれます。
創る、伝える、繫がる 女子美術大学デザイン・工芸学科工芸専攻教員作品展

2017年1月13日(金)~15日(日)、渋谷ヒカリエ 8/COURTにて、えどがわ伝統工芸 ┼ 女子美術大学―伝統工芸者と女子美生のコラボレーション作品展―が開かれます。
えどがわ伝統工芸 × 女子美術大学 ―伝統工芸者と女子美生のコラボレーション作品展―

2017年1月20日(金)~22日(日)(テキスタイルコース)、1月24日(火)~26日(木)(陶・ガラスコース)、スパイラルガーデンにて、「想像┼創造」─116年の伝統と躍動する工芸女子─女子美術大学デザイン・工芸学科工芸専攻卒業・修了制作展が開かれます。
「想像×創造」—116年の伝統と躍動する工芸女子—女子美術大学デザイン・工芸学科工芸専攻卒業・修了制作展

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

島田昌和(文京学院大学 理事長 経営学部教授)

文京学院大学では、パネルディスカッション「伝統工芸活性化に向けた協働と連携 ~インフォグラフィックの効果的な活用を軸に」が、「21世紀鷹峯フォーラム in 東京」の連携イベントとして開催されます。
今回、連携イベントへの参加をご判断された、経営学がご専門の島田先生にお話しを伺いました。

shimada_01工芸と経営学のどこに接点があるとお考えになりましたか?

私どもの大学の経営学部では、デザインやマーケティングに力を入れています。最近では、特にパッと見てビジュアルで伝えるビジュアル・シンキングの力を学生さんたちに身につけてもらうことに取り組んでいます。

工芸の良さはなかなか伝わりにくい部分もあるかと思いますが、ビジュアル・シンキングを使って、もっと工芸を多くの人々に知って頂けると思います。伝える工夫をすることで、人々にとっても親しみやすくなりますよね。

また、ビジネスにつながる橋渡しですとか、工芸をビジネス化することを考えられる人材育成ができますので、工芸と経営学が組み合わさることで、新たな取り組みができると思っています。大きいビジネスも大事ですけれども、手仕事や地道な仕事を社会に広げていくこともとても大事だと思います。

工芸という分野には、若い人たちはなかなか接点がないと思いますので、学生たちにも知ってもらい、考えてもらうということを通じて、少しでも工芸と接点を持って、工芸のお力になれたらと思っています。

今後、どのようにこのイベントに関わっていきたいとお考えですか?

日本の工芸も、グローバル化することで、もっと市場を広げるとか、多くの人に知ってもらえることができると思うのですね。私どもの大学の外国語学部では、日本の力を世界に発信することに取り組んでいます。これまでは、世界から知識を得ることが多かったですけれども、日本のものをもっと的確に世界へ伝えることが、日本の工芸が100年続くためにも必要だと思っています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2016年12月17日(土) 12時30分から、文京学院大学にて「伝統工芸活性化に向けた協働と連携 ~インフォグラフィックの効果的な活用を軸に」が開催されます。
「伝統工芸活性化に向けた協働と連携 〜インフォグラフィックの効果的な活用を軸に」@ 文京学院大学

文 :いしまるあきこ http://ishimaruakiko.com
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

川越仁恵(文京学院大学 経営学部 准教授)

「つくるフォーラム」とは、使う目的を明らかにしたさまざまな「つくる」公募を行うことで、ものづくりの活性化を促す、21世紀的・つくり手支援のかたちです。一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパンが主催しています。
「つくるフォーラム」の総合監修アドバイザーを務められる川越先生にお話しを伺いました。

kawagoe_031年目の京都の「つくるフォーラム」から、2年目の東京での「つくるフォーラム」で変えていくことは何でしょうか。

工芸家の方に、よりビジネスチャンスが広がるように変えていきたいと思っています。その具体的な内容については、乞うご期待ください!

2年目の東京での「つくるフォーラム」に期待することは何でしょうか。

クリエイターの方も、デザイナーの方も、工芸家の方もたくさんいらっしゃる東京ですので、さらに出会いを増やして、みなさんのソーシャルニーズにお応えしていきたいと思います。

今回は参加者がとても多いので、本当にたくさんの出会いや機会がありますし、イマジネーションも広がっていくと思います。そういうところに期待しています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2017年1月23日(月) 13時から、国立新美術館の講堂にて「つくるフォーラム」公募説明会が行われます。
公募予定の企業には、アクアイグニス、「京博ブランド」第二次募集(京都国立博物館のオリジナルブランド)、島津製作所、ナカダイ、ほかが名を連ねています。
つくるフォーラム 公募説明会 @ 国立新美術館・講堂

文 :いしまるあきこ http://ishimaruakiko.com
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

杉本晃則(漆芸家)

「つくるフォーラム」とは、使う目的を明らかにしたさまざまな「つくる」公募を行うことで、ものづくりの活性化を促す、21世紀的・つくり手支援のかたちです。一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパンが主催しています。
「つくるフォーラム」を通じて公募された、「島津製作所 勤続25年表彰記念品」の採用作品に選出され、330個の表彰記念品「漆螺鈿グラス紅白梅」を制作された漆芸家の杉本さんにお話しを伺いました。

sugimoto_01「つくるフォーラム」に応募する際に注意したことは何でしょうか。

一番はコストの面ですね。さらに、330個の表彰記念品を1ヶ月半の期間でどのようにつくるかという面で、適正なものを考えてつくらせていただいたのが、一番注意したことですね。漆の場合、ひとつひとつ手作りのものですから、どうしてもコストが高くなりますので、それをどうやって解決するかを注意しました。

330個の商品を1ヶ月半でどのようにつくったのですか?

今回、グラスを使わせていただいたのですが、普段取引していなかったところとたまたまつながれて、数も確保できましたし、いいことが続きました。一か八かで応募したので、期間とコストと数の条件はもちろん考えてはいましたけれども、採用された時は、一瞬、どうしようかと思いましたね。

2016年度島津製作所勤続25年記念表彰品。表望堂・杉本晃則「漆螺鈿グラス紅白梅」。撮影=多田雅輝
2016年度島津製作所勤続25年記念表彰品。表望堂・杉本晃則「漆螺鈿グラス紅白梅」。撮影=多田雅輝

「つくるフォーラム」と一般的な公募との違いは何でしょうか?

一番の違いは、自己満足ではなく、人が欲しいと思うものをつくらせていただく公募というところですね。一般的な公募の場合は、アーティストの審査員といったプロの方が審査するわけですけれども、今回の表彰記念品の公募は、島津製作所の社員の方に審査していただきました。一般の方が求められているものをつくることが、普通の公募展との違いですね。

本来はそうではないといけないと思います。人が欲しいと思うものをつくることが、需要につながるわけですから。自己満足も大事ですけれども、人が欲しがるものをつくることが、工芸が残っていく、ひとつの大きな筋道になると思います。

今回、「つくるフォーラム」に関わられてプラスになったことは何でしょうか。

普段は、一点、一点のものをつくっているのですが、試行錯誤しながら、量産することを乗り越えられたことで、その体制作りができたことですね。こういう機会がなければできなかったので、ありがたかったなと思います。今後、またこういう機会があれば、そのシステムを使えるので、強みになりました。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2017年1月23日(月) 13時から、国立新美術館の講堂にて「つくるフォーラム」公募説明会が行われます。
公募予定の企業には、アクアイグニス、「京博ブランド」第二次募集(京都国立博物館のオリジナルブランド)、島津製作所、ナカダイ、ほかが名を連ねています。
つくるフォーラム 公募説明会 @ 国立新美術館・講堂

文 :いしまるあきこ http://ishimaruakiko.com
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

大樋年雄(陶芸家・美術家 十一代大樋長左衛門)

2015年の京都、2016年の東京に引き続き、2017年には「21世紀鷹峯フォーラム in 金沢」が開催されます。金沢の実行委員会に名を連ねるメンバーのひとり、陶芸家・美術家の大樋先生にお話しを伺いました。

ohi_022017年に行われる、「21世紀鷹峯フォーラム in 金沢」では何が起きるのでしょうか。

京都でもない、東京でもないことを試みる必要があると考えます。一番大事なことは、金沢のPRではなく、世界やアジアの工芸、日本の工芸のことを考える拠点になる場が金沢だという目線が大事だと思っています。

もっと広い地域で、中国、韓国、タイ、ベトナム、台湾などアジアの工芸を考えてみる必要があると思います。今、日本はそういう視点が問われていると思うのです。自分の地域を自慢しながら発信するのではなく、それぞれの工芸の何が違って、何が共通しているのかをリサーチしていくような拠点が必要だと思うのです。

「21世紀鷹峯フォーラム in 金沢」で、こういうことをしてみたいと考えていることがあれば教えて頂けますか?

世界は工芸を通じて絆を強く持てると思っています。そして、アジアの人は手でつくることに関して、それぞれ大事に考えています。精神性と手作りが一緒になっている。その文化を重んじながら視野を広げてみたらどうかと思っています。

また、日本の様々な工芸を共有しながら互いの相違を認め合いながら世界にどのように発信したら良いのか? もっと細かく、地域に根差していけることはどういうことなのか? 現代アートとリンクしている工芸の視点はどのようなものなのか? このような事柄を話し合ってみてもよいかもしれません。

いま、意味を持つ新しい試みは、100年経てば教科書的な工芸になっているはずなのです。僕らが立っているこの時間から、過去を見てみることと、ずっと先を考えてみることは同じことです。

もちろん、来年のイベントでこのようなことを明確にすることは不可能かもしれません。しかし、そんな予感は発信できるような気はしています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

「21世紀鷹峯フォーラム in 金沢」は、2017年11月17日(金)〜26日(日)に開催予定です。

文 :いしまるあきこ http://ishimaruakiko.com
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

秋濱克大(彫金作家)

「つくるフォーラム」とは、使う目的を明らかにしたさまざまな「つくる」公募を行うことで、ものづくりの活性化を促す、21世紀的・つくり手支援のかたちです。一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパンが主催しています。
「つくるフォーラム」を通じて公募された、京都国立博物館の「京博ブランド 携帯用ミントケース=現代の印籠・振出・薬入れ」の第二次選考通過者の彫金作家・秋濱さんにお話しを伺いました。

akihama_01「つくるフォーラム」に参加されていかがですか?

一作家として、すごくやってほしかったことを、やりたくてもできないようなことを実現してくれたなと思いました。誰かが突破口を開いてくれて、それに作家として参加させていただけるのは光栄なことで、やりがいを感じています。

京都国立博物館のミュージアムショップの商品としてミントケースを制作中ですが、何をふまえて制作されていますか?

ありきたりの物ではなく、手仕事感も残しつつ、愛着が持てるような、既製品ではなかなかできないものをつくりたいと思っています。いつも一点物をつくることが多いのですが、今回は、半一点物というのかな、手仕事の良さが入ればいいなと思っています。

僕は普段から羽をメインモチーフにしているのですけれども、ミントケースでも羽を1箇所入れて、角がなくて握りやすく、女性でも男性でも、一度手にしたら、「これは欲しいな」、「ずっと持っていたいな」と思ってもらえるようなものを制作中です。

akihama_04トロフィーを制作されましたが、そのイメージは?

羽をモチーフにしているのは、持った人にいいことが起こるようにというコンセプトからです。今回のトロフィーでは、この企画、協賛していただいた方、工芸家たちに追い風が吹いて前に進むようにというイメージでつくりました。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2017年1月23日(月) 13時から、国立新美術館の講堂にて「つくるフォーラム」公募説明会が行われます。
公募予定の企業には、アクアイグニス、「京博ブランド」第二次募集(京都国立博物館のオリジナルブランド)、島津製作所、ナカダイ、ほかが名を連ねています。
つくるフォーラム 公募説明会 @ 国立新美術館・講堂

文 :いしまるあきこ http://ishimaruakiko.com
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

渡邊三奈子(女子美術大学芸術学部デザイン・工芸学科工芸専攻 教授)
荒姿寿(女子美術大学芸術学部デザイン・工芸学科工芸専攻 助教)
大﨑綾子(女子美術大学芸術学部デザイン・工芸学科工芸専攻 特任助教)

女子美術大学は、2016年の21世紀鷹峯フォーラムの開催において、全面的なサポートを行い、東京実行委員会での中核的な役割を担っています
同時に「創る、伝える、繋がる」女子美術大学デザイン・工芸学科 工芸専攻教員作品展はじめ、多くの展覧会やイベントを開催。「つくり手」と「つかい手」を積極的につなぐ場を提供しています。
織、染、刺繍について、デザイン・工芸学科で教鞭をとる、3名の先生方にお話を伺いました。

工芸の魅力とは、どのようなものだと思われますか。

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渡邊三奈子先生(女子美術大学芸術学部デザイン・工芸学科工芸専攻 教授)

渡邊:手のなかで素材が変化していくことが、手でつくることの醍醐味だと思います。私は織物を専門としていますが、手を動かしながら偶然発見したことから、さらに想像を膨らませて、自分のスタイルを築いていけるところが、デザインとは違う点だと思います。デザインでは、設計に力を注ぎ、発注し、そのプロジェクトには、エンジニアや職人さんなどの複数の人びとが関わります。工芸は、最初から最後まで自らの手で制作し、考えを作品に込めながら、自分だけが可能な微調整を加え、時折、想定を超えることもあったり、結論は最後の瞬間までわからない。そこにつくり手としての魅力を感じます。

日本の工芸の特徴について、思うところを教えてください。

渡邊:日本では、手仕事をとおして、素材に対しての繊細な意識、触覚が培われてきました。たとえば紙ですと、素材感、薄さや風合いにも敏感になりますから、日本にはいろいろな紙質があります。素材を料理することにも長けていますね。外国から入ってきたものも、日本風にアレンジしてレベルを高めていくし、伝統あるものも新しいものに生まれ変わらせる力があります。その独創性も、日本の工芸の特徴だと思います。

工芸の新しさについて、どのようにお考えでしょうか。

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荒姿寿先生(女子美術大学芸術学部デザイン・工芸学科工芸専攻 助教)

荒:私は染色を学び、学生さんたちと一緒に日々切磋しているのですが、歴史ある豊かな染織文化に、日々後押しされているという意識が強いです。自然を素材に、新しい制作を積み重ねていくと、自ずとアイデンティティーが芽生え、制作が面白くなっていきます。手でものをつくっていくときに、歴史に支えてもらいながら、新しい創造ができる、そこに新しさと魅力を感じます。

いまの工芸の課題について、どのようにお考えでしょうか。

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大﨑綾子先生(女子美術大学芸術学部デザイン・工芸学科工芸専攻 特任助教)

大﨑:私は学校で刺繍を教えていますが、工芸という技術があるにもかかわらず、その技術で暮らしていくのが厳しい状況にあります。システムが構築できればいいのか、作品に魅力を出せばいいのか、アピール不足なのか、他にできることはあるのか……。考えなければならない課題がたくさんあります。21世紀鷹峯フォーラムを通して、日本の工芸のよさを、国内のみならず、海外の方々にも発見していただき、工芸を見直すよいきっかけになれば、と思います。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2016年11月10日(木)~13日(日)、虎ノ門ヒルズ アトリウムにて、A hundred threadsの展覧会が開かれます。
A hundred threads

2016年11月19日(土)、女子美術大学(杉並キャンパス)にて、伝統工芸 こどもワークショップが開かれます。
伝統工芸 こどもワークショップ

2016年12月7日(水)~12月21日(水)、女子美術大学アートミュージアム(相模原キャンパス)にて、創る、伝える、繫がる 女子美術大学デザイン・工芸学科工芸専攻教員作品展が開かれます。
創る、伝える、繫がる 女子美術大学デザイン・工芸学科工芸専攻教員作品展

2017年1月13日(金)~15日(日)、渋谷ヒカリエ 8/COURTにて、えどがわ伝統工芸 ┼ 女子美術大学―伝統工芸者と女子美生のコラボレーション作品展―が開かれます。
えどがわ伝統工芸 × 女子美術大学 ―伝統工芸者と女子美生のコラボレーション作品展―

2017年1月20日(金)~22日(日)(テキスタイルコース)、1月24日(火)~26日(木)(陶・ガラスコース)、スパイラルガーデンにて、「想像┼創造」─116年の伝統と躍動する工芸女子─女子美術大学デザイン・工芸学科工芸専攻卒業・修了制作展が開かれます。
「想像×創造」—116年の伝統と躍動する工芸女子—女子美術大学デザイン・工芸学科工芸専攻卒業・修了制作展

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/

土屋順紀(染織家、重要無形文化財保持者)

染織家の土屋順紀(よしのり)さんは、日本の伝統的な「紋紗(もんしゃ)」という技術を極め、人間国宝に認定されました。糸は植物から染めたもの。専用の機を使い、一反折るのに長い時間を費やします。
土屋さんは京都の美術学校を卒業後、染織家で同じく人間国宝の志村ふくみさんに弟子入りしました。材料や道具の問題、人材育成など、現代における工芸の課題について、お話を伺いました。

tsuchiya_yoshinori_01日本の工芸の魅力とは、どのようなものだと思われますか。

大変身近なものだと思います。絵画や彫刻というものは、鑑賞する対象ですが、たとば、私の従事する染織の世界ですと、作品は身につけるものです。使えるもの、手に触れられるものというのが、工芸の一番の魅力だと思います。

染織を含めて、日本の工芸にとっての課題はどのようなことでしょうか。

工芸全般にいえることですが、材料、そして道具づくりに携わっている方々が、どんどん辞めて行かれる。産業として成り立っていないからでしょう。しかし材料や道具がなければ、ものづくりは存続できない。危惧すべきことだと思います。若い方々が興味をもって、携わっていける世界なのか。また、そういう方々が生活できるだけの経済的基盤が構築できるのか。そこが大きな問題だと思います。

同様のことが、工芸のつくり手にもあてはまりそうですね。

若い感覚でものをつくり、作品を完成させて、発表する場があって、お客さんが魅せられて、人々の生活に受け入れられていく。つかい手の手に渡るまでに、いろいろな要素が必要ですが、さらに染織は、そこに至るまでに時間がかかる。一反つくるのも大変ですし、ある程度の修行を経て技術を習得しなければ、完成度が上げられない。

感覚を頼りに完成度を得られる工芸もありますが、染織はそういうわけにはいかなくて、特に織物に関しては、高い技術をもったうえで、自分の感性をどう入れていくか、というレベルに達するまで時間を要します。現代という時代は、若い人たちが生活と折り合いをつけながら、自己鍛錬していくこと自体に、いろいろな意味で難しさがあるように感じます。

早い時間の流れと経済的合理性が、工芸と乖離しているのでしょうか。

私たちは、どうにか凌いできましたが、この先の世代のことを考えると、本当に大丈夫なのかな?と心配の方が先立ちます。具体的にいうと、着物を着る人が少なくなったことが大きい。それでも私たちは、志村先生の紬の時代があって、それに心から憧れて、ものをつくろうというモチベーションを抱き続けることができました。けれども、いま、若い人たちがそういう気持ちになれるのかという点は、私たちの責任でもありますが、時代的にどうなのだろうか、という危機感があります。

21世紀鷹峯フォーラムに期待していることはありますか。

昨年の京都会議の宣言で、「よき使い手とよき鑑賞者を生みだす」「よいものをつくり続けるための支援」「国内外の現代の生活の中に工芸が行き渡るために」という3つの課題が浮かび上がりました。ものをつくる人間にとって、一番大切なことだと思います。

それを深めるためにも、昨年は京都、今年は東京、来年は金沢で開催されますが、全国には素晴らしい工芸の産地がたくさんあります。この3都市に限定せず、それぞれの地域の魅力を浮き彫りにしつつ、各地で多くのお客様に感動してもらえる環境づくりができるといいと感じています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/