まなびのまなび 第7回  

「見せる」から「共有する」へ

マンチェスターのミュージアムが紡ぐ、ものと人の新しいつながり

プラット・ホール外観 ©Andrew Brooks

プラット・ホールは、イギリス・マンチェスターのプラット・フィールズ・パーク内にある、創造的活動を通じたウェルビーイングの拠点です。18世紀のジョージア朝様式の歴史的邸宅を生かしたこの場所は、2017年までの約70年間、「コスチューム・ギャラリー」として親しまれてきました。現在はマンチェスター・アート・ギャラリーの一部となっています。イギリスでも有数の規模を誇る衣装コレクションを所蔵し、数世紀にわたるファッションの変遷を紹介する場でもありました。

しかし、建物の老朽化により2017年に閉館。改修工事が始まり、服飾コレクションはマンチェスター北部のハーパー・ヘイ地区にあるクイーンズパークの収蔵庫および保存修復スタジオへ移転されることになりました。

プラット・ホールでは、このコレクションの移転を契機に新たなアイデンティティの模索が始まりました。

―プラット・ホールはこれからどのような場であるべきか
―この地域にとって、“Good Neighbour(良き隣人)” になるにはどうすればよいか

このインタビューでは、そんな問いに向き合った、プラット・ホールで活動するルースさんとアーサーさんに、「つながりの中で育まれる自発的な健康づくり」と「ものを介した人とのコミュニケーション」についてお話を伺いました。

ルース・エドソン(Ruth Edson)
プラット・ホールとマンチェスター市立美術館の両方で、シニア・ラーニング・マネージャーを務める。ギャラリーやミュージアムにおいて、コミュニティ、アーティスト、健康保健機関、慈善団体、学術団体とのパートナーシップでプログラムを共同開発する経験を豊富に有する。彼女は、美術館やギャラリーを「社会をより良く変えていくための創造的な取り組み」の中心的な存在にしたい、という強い思いを持っている。
アーサー・シモンズ(Arthur Simons)
プラット・ホールとベター・ヘルス MCRにてヘルス&ウェルビーイング・コーチを務める。グループのアクティビティや個別のサポートを通じて、人々が自身の健康を管理できるようサポートする。参加者に1on1のコーチングをして目標設定を促し、プラット・ホールや地元のロバート・ダービーシャー診療所での様々なクリエイティブ・アクティビティを通じて、参加者が地域と広く関わりを持てるようにしている。

プラット・ホールのウェルビーイングへの取り組み

筆者がはじめにプラット・ホールのことを知ったのは、2023年10月に行われた 国立アートリサーチセンターと東京藝術大学共催の、共創フォーラム「Art, Health & Wellbeing:ミュージアムで幸せ(ウェルビーイング)になる。英国編」でした。このフォーラムに登壇されたルースさんのお話の中に、「コレクションズ・チャット」という、ものを通した対話の試みの紹介がありました。

プラット・ホールは、さまざまな美術作品や資料のコレクションを収蔵しています。これには、衣服やテキスタイル、手工芸、家庭生活や子どもに関する資料、そしてプラット・ホールの歴史に関連するアーカイブ資料などが含まれます。改修を契機に、2019年頃からルースさんは、それらを地域や社会の中でどのように生かすことができるかを模索し、複数の団体や個人との対話を重ねたそうです。

そうした中、コロナ禍によるロックダウン直前の時期に出会ったのが、ロバート・ダービーシャー診療所の総合診療医(GP)でした。その後すぐにロックダウンが始まり、当初はZoomを使いながら、「プラット・ホールはどのように人々を支え、役に立てるだろうか」という問いについて話し合ったそうです。

この対話から生まれたのが 「コレクションズ・チャット(Collections Chats)」 です。この活動は2020年5月、診療所と協力し、ロックダウンによる孤立を和らげる取り組みとしてオンラインで始まりました。ルースさんは言います。

「そのセッションでは、半日ほどかけてワークショップも行ったのですが、大きな紙を用意して、『この地域で優先すべき健康課題は何か?』を一緒に書き出していったのです。そのときに挙げられたのは肥満、糖尿病、メンタルヘルス、若者の健康の4つ 。これらが地域の大きな課題として浮かび上がってきました」

パンデミック中は毎週木曜の朝にオンラインで活動を続け、その後、制限が緩和されると、オンラインでの対話はプラット・ホールでの対面形式へと移行しました。それがのちに現在の「ヘルシーライフスタイル」の活動に発展していきました。

プラット・ホール玄関ホール ©Andrew Brooks

「もう一人の参加者」としてのオブジェクト

コレクションズ・チャットでは、参加者がプラット・ホールのコレクションを出発点として、少人数のグループで考察や記憶、経験の共有をしながら対話をします。人が面と向かって対話をすることと、ものを通して対話することはどのように違うのか、ルースさんの言葉がとても印象的でした。

「私はよく、オブジェクトを ”もう一人の参加者” のように感じています。例えば誰かに直接『体重を減らすのに苦労していることは何ですか?』と尋ねても、うまく答えられないかもしれません。でもオブジェクトについて話しているときには、誰かが面白い話をシェアしてくれたり、『これは何だろう?』と一緒に考える中で、自然に会話が始まったりします。みんなが一緒に学んでいる感覚が生まれるのです」

「ヘルシーライフスタイル」プログラムの様子 ©Arthur Simons

現在は「ヘルシーライフスタイル」というプログラムの中に組み込まれている、この“ものを介した対話”ですが、プラット・ホールでは、目の前にある“もの”についての説明をあえて行わないようにしているそうです。というのも、最初に“これは何で、どのように使われていたものか”を解説してしまうと、受け手がただ聞くだけの受動的な体験になってしまうから。オンラインで実施していた時は、オブジェクトの写真を見ながら対話を行っていたそうですが、現在は実際のオブジェクトを使用しています。

ものの扱いについては、まず資料を扱う際の基本的なルールを参加者と共有し、そのうえで、ルールを守りながら、一つひとつの資料を実際に手に取って、順番に回しながら見ていくそうです。

「私たちはものを扱うとき必ず、どこが壊れやすい部分なのかを最初に説明するようにしています。例えば陶製のレードルなら、『この持ち手の根元と、底の部分の両方を一緒に持ってください』といったように。一方で、脆くて扱えないものもあるので、そういったものはテーブルの中央に置いて、見るだけにしています」

そう言うルースさんの言葉からは、もののケアも同時に考えられていることがわかります。

一回のセッションの参加者は大体、10人程。対話を重ねるうちに、ファシリテーターと参加者からはさまざまな問いが生まれてきます。「これは誰が作ったのか?」「なぜ作ったのか?」という問いから始まり、「いつの時代のもので、どのような素材で作られているのだろう?」「これを使っていた人はどんな人だったのだろう?」といったように、問いが自然に広がり、会話が少しずつ深まっていくそうです。

人とものとの関係が深まると、過去に生きた人々や出来事への共感が生まれます。その場に集まる人々によるグループのダイナミクスやつながりは、お互いに知り合っていくことによって、その体験がウェルビーイングへとつながっていきます。

ミュージアムの収蔵品を手に取る参加者 ©Andrew Brooks

ミュージアムから始まる、健康へのアプローチ

現在プラット・ホールで行っているプログラム「ヘルシーライフスタイル」は、ロバートダービシャー診療所を運営する「Better Health MCR」のディレクターと継続的に対話を続ける中で生まれてきた、ミュージアムのオブジェクトを人々の健康に活かす取り組みです。

コロナ渦で、糖尿病予備群と診断される人が激増し、予防医療に力を入れたいという診療所の強い意向により、最初に行ったプログラムは、糖尿病予備群をテーマにしたものだったそうです。現在もイギリスでは、肥満がとても大きな問題になっていますが、初期医療の現場では、肥満に特化したサービスはほとんどないそうです。アーサーさんが続けます。

「以前は外部の体重管理プログラムなどもありましたが、待機リストがとても長く、結局多くの人がただ治療を待っているだけという状況でした。現在は、注射による治療も一部で行われていますが、それも私費診療(自費)でしか受けられません。
なので、私が会う患者さんの多くにとって、体重管理は共通の悩みになっています。しかしGPには、この事に関してできることが少ないのが現状です」


このような状況をサポートするお二人は、活動を単なる健康プログラムの提供にとどまらせず、地域とのつながりを生かした包括的な支援へと広げていきます。アーサーさんは言います。

「このコースは、ただ集まって話すだけではなく、参加者一人ひとりが自分自身の健康について考えるきっかけを持つ“場”でもあります。自分の身体や気持ちに向き合う時間を持ってもらい、自分のことを『見てもらえている』『聞いてもらえている』と感じられるように、そして、同じような課題を持った他の人たちともつながれるような場をつくっています。
なので、これは厳しく管理された医療プログラムではありません。むしろ健康に向けた旅の“はじまり”として、参加者が自分自身に関心を持って、社会とつながるきっかけになるようなプログラムなのです」


週に1回、6週間にわたるセッションでは、“食事と栄養”や“運動”など、各回の異なるテーマごとに医療スタッフやアーティスト、そしてファシリテーターが参加し、活動を進めていきます。診療所の看護師が参加者に話をしたり、理学療法士とともにエクササイズを行ったりしながら、参加者が自分の健康を自分で管理するための知識、そして自信を身につけることが目的です。

このプログラムでは、シェフが指導するグループでの料理体験や、アーティストと一緒に器を作ったり、小冊子を制作したりするアートワークショップも行われています。

こうした活動を通して、参加者は、楽しみながら学び、自分自身の健康について創造的に考え、向き合っていく方法を体験します。

ミュージアムの収蔵品を手に取る参加者 ©Liz Mitchell

オブジェクトがひらく、記憶と対話

その一環としての、オブジェクトを介した対話のセッションですが、それぞれのセッションに合わせて、事前に保存状態をチェックした3〜4点のオブジェクトを選ぶそうです。例えば、“食事と栄養”の回では、シュガートングやスプーン、18世紀のビスケット型などを用いて話を広げます。対話に興味や主体性を持つために、参加者が自らに選んでもらいます。

「ものを見ながらの会話は面白くて、馴染みのあるものもあれば、『これは何に使うのだろう?』と推測が必要なものもあります。そうやって話していくうちに、『砂糖は昔はすごく貴重で、富裕層の贅沢品だった』という話になったり。ところが現代では逆で、安価な加工食品に砂糖がたくさん含まれていて、減らすのが難しくなっている。そういう時代の変化の話にも自然とつながっていきます」

対話の流れの話をしてくれたアーサーさんは、オブジェクトをきっかけに話すことで、参加者同士の関係も少しずつ築かれていくと言います。ルースさんが続けます。

「ものは場に”存在感”を与えてくれて、人間であることの意味を思い出させてくれるようなところがあります。例えば誰もがスプーンを使ったことがあるし、スプーンを見ればすぐにそれが何かわかりますよね。そして多くの場合、それをきっかけにした体験や話を、みんなで共有することができます」

オブジェクトの存在が、自己認識や経験の形づくりにどう関わっているか、アーサーさんが印象に残っているエピソードを次のように話してくれました。

「セッションで選んだオブジェクトの一つに、1950年代のテニスラケットがありました。ある女性が、子どもの頃にテニスをしていた話をしました。ラケットを手に取った彼女の表情や雰囲気が、明らかに変わっていったのがわかりました。若い頃の経験を思い出し、とても生き生きと話していて、『どうして今はテニスをしていないんだろう?』と考えているのが見てとれるようでした。オブジェクトを通して、自分の気持ちや考えに向き合う時間になったのです」

オブジェクトは記憶や場所、帰属意識を呼び起こすもの、というアーサーさんは、こうした体験が人々のウェルビーイングを支え、物事をはっきり考える助けにもなると感じています。

このように子どもの頃の記憶を語り合ったり、自分の人生での出来事を共有する時間は、孤独を感じている人や、社会的なつながりが少ない人にとって、心を支える大切なものです。アーサーさんは「大事なのは、ただ記憶を思い出すことではなく、物語を語り合い、人生を共有することなのです」と分かち合うことの意義を強調していました。

「人生で直面する課題は、とても捉えにくいことがあります。このコースは、まさにそうした状況に向き合うためのものです。健康的な習慣をもう一度一緒に見つけ出していくこと。それがヘルスコーチングのアプローチの核です。
人はそれぞれ、自分の中に答えを持っていて、自分自身がいちばんの力の源なのです。ちょっとした手助けや、ほんの少しのフォーカスがあれば良いのです。このコースでオブジェクトを通して対話することが、そのきっかけになればと思っています」

コーチングの様子 ©Andrew Brooks

居場所としてのミュージアム

マンチェスター市の自治体の管轄下にあるマンチェスター・アート・ギャラリーとプラット・ホールは、市の共通の目標として、2025年から2035年までの10カ年計画のもとで、人・場所(地域)・経済成長という3つの柱に沿って活動しているそうです。

マンチェスター・シティー・ギャラリーは、この3つすべてに貢献していますが、特に“人”と“健康・ウェルビーイング”はプラット・ホールの活動の目的とアイデンティティの核として位置づけられています。ルースさんは、「この活動で得られることは、美術館から地域への一方向ではない」と言います。

「今回のようなパートナーシップによる取り組みの強みは、私たちにとっても非常に大きいです。なぜならこうした活動を通じて、普段は美術館や博物館に行かないような人たちが足を運んでくれるからです。そして、オブジェクトを地元の方たちと一緒に見ることで、それがどんな意味を持ち、どう使われてきたかなど、スタッフもその資料について理解を深めることができます」

プラット・ホールがある地域では、100以上もの言語が話されるほど多様な人々が暮らしているそうで、さまざまな背景を持った人々がプログラムに参加します。

「このコースは参加者にとって“出発点”のようなもの」と語るアーサーさんは、コースで学んだことをプログラム終了後の生活の中で持続させるための、さまざまな工夫や機会を設けていると言います。

「6週間のコース終了後に3か月後のフォローアップがあり、その後も継続的に関われる機会があります。例えば、毎週行うウォーキンググループではコレクションの写真を見ながら会話を楽しみ、ガーデニングプロジェクトでは自然の中で体を動かします。さらに、さまざまなアーティストがワークショップを担当し、一緒にものづくりを楽しむこともできます」

こうして参加者が“居場所”を見つけ、つながりを維持することは、プラット・ホールにとっても、とても大切です。ルースさんは言います。

「プラット・ホールのコレクションはとても多様で、収集された経緯や背景がよくわかっていないものも多いのです。ほとんどが100年以上前に収蔵されていて、当時の記録しか残っていないものもあります。だからこそそのものについて、“今の私たちはどう理解するのか”“どうやって今の社会とつなげていくのか”という問いは重要です。
また、人によって知識のレベルもさまざまで、調べたり共有してくれたりします。そうやって一緒にやっていくことが、プラット・ホールというミュージアムにとっても、とても大きな意味を持っていると思います」

オブジェクトを扱う参加者たち ©flematu sessay

Sharing, not Showing ― コレクションを共有する

医療の場では多くの場合“問題を解決すること”が中心になりますが、このセッションでは、人々の日常生活をより豊かにすることに焦点を置いています。

「私たちは、プラット・ホールという場所、そしてその建物やコレクションそのものを、ウェルビーイングに生かしたいと考えています。なぜなら、ここは地域の人々のヘリテージの一部であり、彼らの生活の一部でもあるからです。コレクションが人々の今の暮らしとつながっていることが大切です。箱の中にしまわれたままではなく、日々の中で生きる存在であってほしいのです」 

プラットホールの今後の“ものと人のあり方”として、ものをなるべくガラスケースの中に置かず、より参加者に近く、可能であれば実際に触れられるようにすることを目指しているそうです。オブジェクトに触れることと、ただ見ることでは違いがあるか、プラットホールでは以前にアンケートを行ったそうです。ルースさんが説明してくれました。

「コレクションズ・チャットの最後にアンケート評価を行ったことがあります。その結果、参加者の多くが『触れることが大きな違いを生む』と答えていました。オブジェクトの感触や存在感をより実感できることは非常に重要です。
また、ミュージアムでガラスケースの中に入ったものは自分から遠く、切り離されたもののように感じます。触れた時の感覚を通じて理解したり、会話を通じてつながりを感じたり、物との実感的な関係を持てるように工夫しています」


職員のディスカッションの中で出ていたキーワードのひとつの、“Sharing, not Showing(見せるのではなく、分かち合う)”という考えをお二人が教えてくれたのですが、これは、“私たちの所蔵品を見せます”というスタンスではなく、共有することを重視するという考え方です。ここにプラットホールの地域との関わりにかける思いが、表わされていると感じました。

歴史的には、マンチェスター・シティー・ギャラリーでは絵画の貸し出し制度があり、1980年代まで続いていたそうです。リーズ・アート・ギャラリーでは現在も貸し出し制度があり、月額または年額で申し込み、作品を自宅に置くことができる仕組みもあります。

また、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館では、今年5月に新しいストアハウス(見せる収蔵庫)がオープンし、“Order an Object”という、所蔵品を間近で観察したり触れたりできるシステムが始まっています。

ミュージアムの収蔵品を手に取る参加者 ©Andrew Brooks

人をケアすることと、オブジェクトをケアすること

このように、作品や資料がより身近なものとして触ることができるプログラムは増えてきていますが、オブジェクトを“良い状態で保つこと”と“実際に使い、人に見せること”のあいだには常にジレンマがあります。そのバランスを取るために、プラット・ホールでは、扱うオブジェクトについてのガイドラインを保存修復チームと共同で作成し、状態のモニタリングも継続的に行い、リスク管理を行っているそうです。

「人によってオブジェクトの扱い方はとても違います。それは性格にも関係していて、自分の持ち物をどう扱うかにも通じています。中にはあまりものの扱いに自信がない人もいますよね。だからこそ、できるだけ安全な環境を整えておくことが大切なのです。
それは実は、人に対しても同じことです。セッションの最初には、まず『みんなにとって安心できる場にするために、何が必要だろう?』という話をします。これは、オブジェクトを安全に扱うためだけでなく、私たち自身の心の健康を守るためでもあります」


「セッションのはじめにはいつも、互いを尊重し、育ってきた環境や文化の違いに意識を向けることの大切さを伝えている」というルースさん。参加者たちが安心して時間を共有できるよう、空気を整えることを大事にしています。

そして同時に、不快に感じることや違和感があったときには、ためらわずに話せる環境もつくっています。チームのメンバーは、「トラウマ・インフォームド・プラクティス(トラウマに配慮した実践)」の研修を受けているそうで、誰かが傷ついたままにならないよう、安心して話せる場になるように心が配られています。ルースさんは言います。

「人をケアすることと、オブジェクトをケアすること、この両方が同じくらい大事だと思います。実際にオブジェクトを扱う場面で、私にとって心に残るのは、参加者が自分の人生の物語を語り始める瞬間です。オブジェクトを通して、参加者が自分の過去や経験を見つめ直したり、これまでに起きた出来事について物語ることで、人とつながったりする。その“Story-telling (語り)”がとても大切なのです」

この場所は自分たちのものでもあるという“居場所”となるためには、場やものの記憶と自分の記憶が織り込まれていくことが必要なのかもしれません。インタビューでお話を伺う中で、お二人に常に通底していたのは、共感や理解、共有という視点です。

ミュージアムのオブジェクトがもつ歴史や記憶の存在が、対話に”参加”するものとして生かされ、その対話を通して地域の人々のウェルビーイングにつながっている――ガラスケースの中で『見せる』だけでなく、人々の記憶とともに『共有する』という視点は、ものを通して私たちの現在を支える力を生み出すことにもつながるのではないでしょうか。

取材協力

Platt Hall