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まなびのまなび 第4回

子どもの「やってみたい」を大切にする

自由にあそび、自由にまなぶ。せりがや冒険遊び場

ここでは、子どものまなびにまつわる実践や場づくりをされている人たちと、彼らのアイデアや方向性に焦点を当てます。子どもたちが生き生きと学び、伝統工芸の面白さや美しさ、重要性が伝わるにはどうしたらよいのか? コンサバターである筆者が、自身の分野を伝える際にもつ共通の課題を通して、“聞いてみたい” から得た視点を共有していきます。

岡本恵子 おかもと けいこ

「NPO法人子ども広場あそべこどもたち」初代代表、現理事、事務局。せりがや冒険遊び場プレーリーダー。大学4年から、上野動物園子ども動物園で子どもと動物が触れ合う場の指導員。目黒区碑文谷公園でポニーによる乗馬体験の指導員。

1997年より、小学校を使った遊び場、中学校を使ったフリースペース、地域の民地での冒険遊び場活動を続ける。過去に町田市子どもマスタープラン審議委員、町田市福祉のまちづくり推進協議会委員、子どもセンターばあん運営委員を務める。

せりがや冒険遊び場 ©せりがや冒険遊び場

東京都町田市芹ヶ谷公園せりがやこうえんにある冒険遊び場は、子どもの「やってみたい」を大切に、できる限り規制を無くした自然の中の遊び場です。町田市から常設型の冒険遊び場として選定され、地域住民が中心となって市の補助金を受け、NPO法人子ども広場あそべこどもたちが運営しています。
木や竹の茂った斜面にある遊び場に設置されたあそび道具や遊具は、専門家のアドバイスを受けながら全て手づくりされたもの。一帯は秘密基地のようなワクワク感に満ちています。

そんな冒険遊び場で、プレーリーダーとしてご活躍の岡本恵子さん。24年間冒険遊び場に携わられ、この活動は生きがいというほどの存在です。そんな岡本さんに、子どもたちが「自由にあそび、まなぶ」ということについて伺いました。

せりがや冒険遊び場であそぶ子どもたち ©岡本千尋

みんなでつくり合う遊び場

芹ヶ谷公園に冒険遊び場がオープンしたのは、2014年9月。地域の人たちからは“せりぼう”という愛称で親しまれています。この一帯は木や竹が生い茂っていたそうで、まず始めにやったことは、土地の整備でした。

「1カ月半ぐらいは木こり作業の日々でした。鬱蒼うっそうとした林だったので、細めの雑木や竹を切ったり、斜面しかないから平らな場所や階段を設けたりと。その後に、遊具などを制作していきました。でも、ここは運営者側が全部つくって提供するというよりは、みんなでつくり合う遊び場なんです。なので、地域の人たちも、あそびに来るお父さんお母さんも、一緒にここをつくる仲間だと思っています」

団体が発足したのは1997年。当初岡本さんは、近隣の小学校の校庭・図書室・体育館を月1回借りて、そこで子どもたちが自由にあそべる場を始めました。その後、中学校の放課後における「居場所不足の問題」にも取り組み、中学校の許可を得て調理室と多目的室を子どもたちにフリースペースとして提供。その当時の先生たちが “自由の幅を広げて自律を促す”という取り組みをしていたこともあり、中学校の施設を開放することが実現しました。そこで、中学生はヒップホップの練習をしたり、調理室で一緒におやつをつくったりもしました。

この頃、岡本さんは冒険遊び場づくり全国研究集会に参加し、もともと知っていた世田谷の冒険遊び場など他の地域で遊び場をつくる人たちと出会いました。岡本さんは自然の中で冒険する場の提供がしたいとの思いから、町田の地主さんの協力を受けてせりぼうの前身である成瀬の「三ツ又冒険遊び場たぬき山」の活動が始まりました。芹ヶ谷公園に遊び場をオープンするまでの15年間はそこで活動しました。

たぬき山 ©大西暢夫

自由と自律

中学校の先生の取り組みにもありましたが、自律を促すことを考える際に「自由」という言葉が出てきたことが私には意外でした。

「自分がやったことの結果は自分で受け止めて責任を持つことで、自分を自由にできるということだと思うんです。ここでは子どもたちが失敗や怪我、友達との喧嘩も含めて、すべて自発的に行動したことの結果を自分たちで受け止め、ではどうしたらいいかということを自ら考える。そしてまた一歩踏み出す、その繰り返しの中で子どもが自分で育っていくことを大切にしています。」

何をしてあそぶかは子どもに任されていますが、乳幼児からご高齢の方まで幅広い年齢層の方が集まる場であるため、安全対策には特に力をいれています。危ないことが起きないよう監視するのではなく、環境を工夫して防ぐという方法が取られています。

「高いところに登るような遊具もありますが、小さい子が登っては困るようなケースでは、階段をつけなかったり、もしくは最初の一段をすごく高くしたりして、小さい子が登れないよう工夫をします。でも、上に登ったところには柵は一切しません。柵をつけない理由は、それに頼ってしまうことと、柵の上に乗ってしまうことがあるからです。

危ないものはある程度危ないままにしておくほうが、その危険をちゃんと察知して、子どもが自分の身を守ることを身につけられますから、 そのような形でやっています」

遊び場は必ず運営の大人が3人体制です。それは何かあった時に、その子に対応する人、保護者に連絡対応をする人、そしてそれ以外の子どもたちを見たり、危険だった場所を人止めしたりという対応をする人といった役割が必要なためです。

やぐら ©せりがや冒険遊び場

せりぼうでは火が使えることにも驚きました。ファイヤースターターを使って自分で火をおこし、持ってきたマシュマロを焼く子どもたち。最近の子どもたちは火を見る機会が少なく、マッチもほとんど使わないため、摺り方がわからないこともままあるといいます。ここで火を使う理由について、伺いました。

「一つには火の温かさ。例えば調理するとか工作で火を利用するとか、火があることで人が集まって自然に交流が生まれるような体験を、子どもたちにしてもらいたいのです。もう一つは、火の危なさを実感として知ってほしいということも理由です」

本来は公園は火気厳禁ですが、子どもの体験のために行政や消防署から許可を取り、火が使えることになりました。

火を使用する場所は限定し、下には耐火レンガ、上にはトタン板が設置してあります。

安全に使うためのルールは、まず最初に必ずまわりの葉っぱ を掃く、紙と葉っぱは燃やさない(煙が多く出たり、火が付いたまま風に飛ばされたりという危険性があるため)、などいくつかあり、また、有害物質が出ないように、建材は何も塗られていない無垢の木だけになっています。

たき火 ©せりがや冒険遊び場
たき火でマシュマロを焼く子どもたち ©せりがや冒険遊び場

先回りして教えない

道具を使って自由に工作できるスペースもあります。そこでは大人が付きっきりでいることはありません。ナイフやノコギリは貸し出し制にして、その際に一人ひとりの経験を聞いてから、補助の必要性を判断するそうです。

「例えばナイフを借りたい場合は、ナイフを使ったことあるかどうかを聞いて、使ったことがない場合は教えます。本当に小さい幼児が使う場合は、お家の方と一緒にやってもらうのと、とても危ない使い方をしていたらちゃんと伝えます。できないから教えてほしいとか、やってほしいとか頼まれることもありますが、状況によって教える場合もあれば、一緒につくる場合もあります。

でも、ここで一番気を付けなくてはいけないのは、先回りして教えないこと。その子どもが自由にできるというのは成長のチャンスなんです。先回りすると、それを奪ってしまう」 

“先回りしない“ということは、あそびにおいても同じこと。

「大人がリードしてしまうと、子どもの中から生まれる自由な遊び方が削がれて、楽な方に子どもも行ってしまうんですね。大人の考えることって面白かったりするから、それで結構子どもは遊んだ気になってしまう。でも、それは子どもが本当にやりたかった遊びなのか。子どもたち同士で、とんでもない方向に広がっていくような、そういう遊びの芽を、大人が摘んでしまうことはよくあるので、それは気を付けています」

枯れ葉で遊ぶ子どもたち ©せりがや冒険遊び場

また、つくるお話を伺うなかで面白かったのは、“壊す”ということに話が及んだことです。

「木にしても土にしても自由に形を変えられるので、一回つくったものを壊せるということが大事です。“つくる”と“壊す”はイコールなんですよね。つまり、前の状態を壊して新しい状態をつくっているので、常につくることは壊すことでもある。壊すことが自由にできないと、しなやかにつくることもできないだろうなと思っています。 壊すのは悪いことでは決してないですものね。

電子ゲームは壊すとそれだけでもう終わってしまうし、使い方もある程度決まっているけれど、 自然の素材っていろんなことで遊べるから、それが素敵だなって思います。」

美術館との連帯ワークショップ

公園内にある町田市立国際版画美術館のアーティスト・イン・レジデンスとの連帯ワークショップも行いました。 公園の整備で伐採が決まっていたエゴの木を切らずに、みんなで根から掘り出して版木にしたというプロジェクト。実はその木は、子どもたちがいつも木登りをしていた木でした。市民400人が参加するという大掛かりなもので、切り出した材に電熱ペンで絵を描いて、それを版にして刷ったものを、版画作家さんが大きな作品の中に全部貼り付けて、一つの作品として完成させました。

「インプリントまちだ展 2019 田中彰 町田芹ヶ谷えごのき縁起」展 
イベント風景 町田市立国際版画美術館 ©せりがや冒険遊び場

また、釘ナイフづくりが日常の遊び場のなかで行われたり、工芸のワークショップとして、野染めを開催したりしています。

「釘ナイフは、七輪で火をおこしてそこに五寸釘を入れて真っ赤になるまで焼きます。金床かなどこの上にのせて、金槌で叩いて伸ばす。やすりで削ったあと最後に砥石で研いで、ナイフをつくります

そして染色。野染めをやっています。京都在住の染色家の斎藤洋さんが、 京都からはるばる来てくれています。幅1メートル、長さ20メートルある木綿の布に、草木から煮出した染料を使ってみんなで染める。染める刷毛はけは、最初のうち染色家が使う馬毛うまげの刷毛を使っていたんですけど、最近斎藤さんは、草を使ったり、小さく切った布を折って、絞り染めするような形にして染料をつけたりしています。最後に広げると絞り染めになっているんですよね」

野染めの様子1 ©岡本千尋
野染めの様子2 ©岡本千尋

子どもの成長の芽を摘まない

岡本さんは、プレーリーダーとして大事なのは “子どもが何をしたいかをしっかり感じ取り、それに沿って遊び場をつくっていくこと” だと言います。子どもは言葉で伝えることもありますが、つぶやきや行為という言葉以外の方法でも伝えています。それらに気づく目や耳をちゃんと持っていることが大切です。

岡本さんの経験として、こんなエピソードが強く心に残っています。

「そろそろ閉園になる夕方頃に、 机の上にあった蚊取線香の小さな残りを見つけた子どもが『これ火つけていい?』と聞いてきたんです。『もう閉園の時間だからつけなくていいんじゃない』と答えたけど、また『つけていい?』と。『そんなに蚊もいないから大丈夫だよ』って言ったけれど、それでも3回ぐらいその子がきて。

そこでやっと気づけたんです。あ、この子はただ蚊取線香に火をつけたいだけなんだ。私はそれを、“こうだからいらない”という理屈で、この子の体験のチャンスを奪おうとしていたんだと。つけたいという子に、『いいよ』と言えば済むだけの話だった。たとえすぐに消すのだとしても、その子はとにかくつけてみたかったんですよね。それを諦めずに言ってくれたことに、すごく感謝。大抵の場合、一言大人が返した時点で、子どもは諦めちゃうので」

「無意識に子どもの芽を摘んでいることはたくさんあって、常にその自覚を持たないと、大人にとって都合のいい場所になってしまう」そんな岡本さんの言葉に、自分を省みました。

釘ナイフ作り ©せりがや冒険遊び場

あそび方のいまむかし

“あそぶ”という行為の本質は変わりませんが、あそび方は時代と共に変化しています。昔と今とどのように変わってきているのか、岡本さんはこう言います。

「私が子どもの頃は、家の前の道が遊び場でした。そこでゴムはじきをしたり、ままごとをしたりして遊んだ覚えがありますが、今は道で遊ぶということがまずない 。お寺や神社の境内とかも普通に自由に遊べる場だと思っていたけど。今はなかなかそういう場所で遊んでいる子たちは見かけません。本来遊び場じゃない場で遊ぶ子どもたちが、今あまり見られないというのはちょっと寂しいですね」

イギリスのNPO団体London Playでは、プレイストリート(ご近所みちあそび)という運動をしていて、その活動は世界的に広まっているそうです。Tokyo Playもその一つ。例えば、住宅街の道を通行止めにして、地域の人たちとみんなで遊ぶ機会をつくる。地域の中での繋がりを生み、子どもだけのためではなく、 大人もそこで交流して、地域の子どもたちを知ることができます。

「最近は、周りの大人が地域の子どもたちを育てるということが、なくなってきています。でもこの冒険遊び場の中だと、ある意味大家族のような関係性が築ける。学校も年齢も違う子どもや大人たちがここで出会って、あそび仲間になっていきます。だから、不登校の子もよく来るし、その子が乳幼児のお母さんたちととても仲よくなるんですね。お子さん同士も仲よくなるし、小さい子の親御さんたちも、自分の子と遊んでくれる中学生みたいな感じで。

子ども自身もあそびを見つけられて、それによって変わることはとても大きいじゃないですか。大人が子どもを変えることよりも、子ども同士で子どもが変わることの方がずっと大きい気がします」

何もしなくてもいい

この冒険遊び場は、ワクワクが詰まっているような場所です。きっと子どもが何をしたらよいかわからないというようなことはないのだろうと質問したところ、慣れてない子の中には少し時間がかかる子もいるそう。まわりの子を見て次第に仲間に入っていきます。しかし続けて、岡本さんはそれとは違った視点を教えてくれました。

「何かしなきゃいけないというわけでもないんですよね。こういう場で何となくぼーっとしててもいい。常に何かに追われている日常の中で、ぼんやりできる時間が逆に子どもたちにはないから。ここに来てぼーっとして、暇でもいいんです。

そうすることで、何か普段感じることのできない自然に身を委ねる。鳥の囀りに耳を傾けたり、じっとして風を肌で感じたり、葉っぱが落ちる音を聞いたり。慌ただしくしてると気づかないような、何もしてないときにしか感じられないことだから、そういう時間もすごく大事だと思うんです」

冒険遊び場で大きなワクワクに全身を使ってあそぶのもよいけれど、小さくて微かな自然の動きを見つめる時間もいいよねと言える。いろいろなあそびや、さまざまな視点、それぞれの立場で一緒にいられる場所が、子どもの成長を支えているのだなと思いました。

取材協力

せりがや冒険遊び場

〒194-0014 東京都町田市高ヶ坂1-9
https://seribou.jimdofree.com